Qualcomm社の新本社ビルにある「Patent Wall」。同社が取得した特許の表紙をパネルにして、壁に敷き詰めるように掲示している。同じ敷地内の向かいにある旧本社ビルには初代のPatent Wallがある。
Qualcomm社の新本社ビルにある「Patent Wall」。同社が取得した特許の表紙をパネルにして、壁に敷き詰めるように掲示している。同じ敷地内の向かいにある旧本社ビルには初代のPatent Wallがある。
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 2012年11月に、米Qualcomm社が米国サンディエゴの本社で開催した報道関係者向けイベントに出席しました。「日経エレクトロニクス」や「Tech-On!」の読者には以前からなじみのある企業だと思いますが、最近ではスマートフォンの製品カタログにプロセサのメーカーとして載っていたり、半導体メーカーの売上高ランキングで大きく躍進したり(Tech-On!の関連記事)といったことで、技術系以外の人にもかなり知られる企業になったようです。

 このイベントに参加したある媒体の記者は、「ずいぶん前から『Qualcommのことをもっと報道すべきだ』と上司に伝えてきたのに、あまり良い反応がなかった。それが、株式時価総額で米Intel社を超えたころから、急に『もっとQualcommのことを書け』と言われるようになった」と苦笑いしていました。2012年12月にはシャープへの最大99億円の出資も発表する(同関連記事)など、その注目度はさらに高まっています。

 Qualcomm社が2012年11月に発表した2012年度決算(2011年10月~2012年9月。GAAPベース)は、売上高が前年度比28%増の191.2億米ドル、営業利益が同13%増の56.8億米ドルでした。過去最高の業績を毎年のように更新している同社は、スマートフォンへのシフトで最も成功した企業の1社といえるでしょう。3GPP(3rd Generation Partnership Project)などにおける移動通信規格の標準化を主導して最新の規格に適合した通信用チップをいち早く投入したり、CPUやGPUといった主要回路を独自開発に切り替えてチップセットに統合したりといった戦略がことごとく当たった格好です。

 Qualcomm社に、死角はあるのか――。

 報道関係者向けイベントで同社の戦略を聞きながら、そんなことを考えていました。結論から言えば、現時点では私の目には死角は見えませんでした。

 我々が「日経エレクトロニクス」の2010年7月12日号特集をまとめた約2年前には、「台湾MediaTek社やそれに続く中国や台湾などの新興半導体メーカーがQualcomm社の足元をぐらつかせるかもしれない」といった可能性を考えていました。しかし、Qualcomm社の対応は早く、強力でした。MediaTek社が2G携帯電話機で実現していたような量産適用可能なリファレンス・デザインを、3Gスマートフォンで実現したのです。既に40社以上のOEM企業がこの「QRD(Qualcomm Reference Design)」を利用し、100機種以上を市場に投入したそうです。

 将来に向け、同社がチップセットとして提供できる機能を増やす取り組みにも力を入れています。例えばワイヤレス給電技術の業界団体「Alliance for Wireless Power(A4WP)」を主導して携帯機器に向けた非接触充電方式の仕様を策定していますし、「詳細は明かせないが、新しい電池技術の開発に向けた投資も行っている」(同社 President and COOのSteve Mollenkopf氏)そうです。また、デジタル民生機器や家庭用ネットワーク機器など、モバイル機器以外の用途も開拓しつつあります。スマートフォン市場が衰退する時期はまだ想像できませんが、そうした時代に向けた手も打っているといえます。

 Qualcomm社の好調は、当面は続きそうです。機器メーカーに求められるのは「機器の心臓部の技術を一手に引き受ける企業とどのように付き合い、世界の競合企業とどのように戦っていくか」という課題に対する答えでしょう。パソコン時代の「Wintel」モデルで突き付けられたのと似た課題です。Qualcomm社の動向をしっかり観察していく必要がありそうです。

 今回の報道関係者向けイベントで解説されたQualcomm社の戦略については、Tech-On!上で「Qualcomm研究」と題した連載記事にまとめています。ぜひそちらもご覧ください。