(写真:加藤 康)

 研究開発ファンドに携わる私の目から見て、日本のエレクトロニクス産業には今なお、新しい技術を生み出すポテンシャルがある。日本のように材料から部品、最終製品と、幅広い分野で強い企業が存在する国はそうない。米国企業のIntellectual Ventures Management(IV)社が最初に海外事務所を立ち上げたのは日本だった。新技術の芽を生み出す研究者の層は厚く、それらの技術を使う企業も数多く存在するからだ。日本は世界でもオープン・イノベーションに最適な場所の一つと言える。

 日本が競争力を取り戻すには、グローバルの市場を見据えて“遠くの的を射る”研究開発が必要だと考える。5年後、10年後の市場ニーズを見極め、的が動いていても正確に射ることができる仕組みを作らなければならない。そのためにも、外部の研究リソースの有効活用が不可欠になる。

 日本企業は、研究開発の地力を維持するために、外に出したくない「中核技術」は今後も社内で開発を続けるべきだろう。一方で、「あったら使いたい」レベルの技術まで自前で開発するのは効率が悪い。グローバルの研究開発競争で勝ち残るために、こうした領域では積極的にオープン・イノベーションを利用すべきだろう。

 IV社は世界中の研究者をネットワーク化し、彼らの成果を企業に紹介する枠組みを作った注2)。海外はもちろん日本でも紹介事例が出始めている。こうした枠組みが企業に受け入れられるようになったのは、世界中に散らばっている研究者の力を融合すれば新しいものを生み出せるという期待の表れではないか。企業の意識は、着実に変化している。

注2)IV社は投資家から集めた総額約5000億円を研究開発などに振り向け、そこで開発した技術を企業にライセンス供与する事業を展開している。さまざまな産業分野において5年後、10年後にビジネスの芽が出そうな研究テーマを設定。約100人の研究者が社内で研究開発を行なっているほか、大学や民間の研究機関、個人発明家など2万人近くの研究者と研究委託の契約を結んでいる。