企業のMEMS研究を支援

 私の専門領域であるMEMS分野では、国内で慢性的に技術者が不足している。米国などの場合、企業がMEMS市場から撤退すると、その技術者は独立してベンチャー企業を立ち上げることが多い。ところが日本では、企業が同市場から撤退すると技術者は同じ会社で別の分野の担当になってしまう。MEMSの技術者が育たないのも無理はない。

 人材育成という観点から、私の研究室では、企業からの単なる委託研究は受けていない。企業には「必ず人をよこしてください」とお願いしている。研究室では企業の研究員が学生と一緒になって、装置を操作している。外に頼らずに自分で汗をかかないと、人材は育たない。

 私の研究室では、共同研究と関係なく、研究員として昔来ていた人が、勝手に設備を使っていいことになっている。企業が技術を研究するごとに設備投資をしていては、競争力が低下してしまう。だから企業は設備投資などしないで、どんどん大学の設備を使い、大学側もそれを受け入れるべきだと思う。

 米国の大学などの研究機関では、共用の装置を設置して企業などにも使用してもらい、その使用料を研究費に充てている。こうした設備の有効活用のビジネスモデルを日本でも実現したいという思いから、東北大学のキャンパス内に「試作コインランドリ」という施設を開いている。時間制の格安料金でMEMSの試作ラインを企業などに広く提供する施設だ。前工程から後工程まで、60種類以上の製造装置がある。施設を利用するユーザーは、洗濯機や乾燥機を有料で使用するコインランドリと同じように、装置を使った分だけ使用料を支払う。開設以来、全国各地から多くの企業が訪れている。装置の使用件数が300件を超える月もあるほどだ。

 ただし、企業との連携を加速していく上で、解決すべき制度上の課題がある。基本的に大学の設備を利用して作ったものは、企業が製品として販売できないことだ。制度自体が時代遅れになっている。経済産業省や地方自治体などに制度改革を働きかけている。

■変更履歴
記事掲載当初、江刺氏の所属に誤りがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2014/2/20]