ものづくりITで競争に勝つ

図2の市場規模が1億個以下、製品の需要変動も3年以上という分野で、日本に設計と製造拠点を置きつつ、競争優位を得るための戦略を考えてみたい。ここでは、[1]設計で差別化する、[2]生産技術で差別化する、[3]ビジネスモデルで差別化するという3つの視点を設定してみる。日本ですり合わせ能力を最大に発揮した設計をして、強みである生産技術の力で高い生産性を実現し、さらには、競争の土俵を変えて勝とうという戦略である。今回は、この戦略を軽量3DのXVLを中核とするものづくりITでいかに支えるかを、この3つの視点から、もう少し詳しく説明しよう。

[1]すり合わせ設計で差別化する
大量生産を低賃金で実現する新興国のEMS(電子機器の受託生産サービス)には勝てない。新興国では、なかなか真似のできない魅力的な製品を作り出すことが重要だ。勝つためには、対象製品はすり合わせ能力を発揮できるもの、また、コモディティ化しないためにはエレキ的要素が全てになってしまわないもの、すなわち産業機械や輸送機器といった分野が有力だ。エレキ的な要素だけでは差別化できないので、複雑なメカとエレキの組み合わせを基幹部品として持っている分野が最適だろう。ここでは、メカとエレキ設計のすり合わせをITで支援する仕組みが必要になる。

[2]生産技術で差別化する
生産プロセスを徹底的にガラパゴス化する。日本の得意分野である生産技術の力を最大に発揮して、生産手法で徹底的に差別化する。多少の人件費の差は、生産手法を工夫することで改善できる。米国ハケット・グループの調査によれば、物流費を加えた総コストの米中格差は、2005年の31%が、2010年には23%となり、2013年には16%となる見込みだという。もはや、中国のコスト優位性は失われつつある。日中間でも同じ傾向が続いている。生産性で優位性を保っていれば、仮に為替レートが円安に振れたとき、日本の製造拠点の方が圧倒的な優位性を持つことすら起こり得る。そのためには、たとえば、生産ラインをデジタルモデルで検証するなど、生産技術の力で日本の製造拠点を進化させていく必要がある。

[3]ビジネスモデルで差別化する
ハーバード大学ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン教授は、コモディティ化が起こると、購買、製造、出荷、マーケティング、販売、サービスのバリューチェーンのどこかで脱コモディティ化が生じると指摘している。機能や性能で差別化できなくなると、企業は競争の土俵を変えて、圧倒的な納期短縮やサービスで差別化しようとする。たとえば、欲しい製品が今すぐ手に入るとか、故障した際に心憎いサービスがあるといった差別化である。このような分野でも、多品種少量生産を実現するセル生産方式をデジタルマニュアルで支援したり、サービスをデジタルモデルで改善したりするといった手法で、ものづくりITは貢献する。

次回は、この3つの側面を具体的に説明していく。