保税工場を過ぎると、今度は川沿いの道に出る。それまで壁にさえぎられていた視界が突然開ける。川向こうに何十棟もの巨大な建物の連なるフォックスコンの工場敷地内が一望できるようになる。とはいえ、見えるのは主に手前の一列の建物だけ。その奥、そのまた奥と、建物は何層にも重なっているが、肉眼では霞んでしまって見通せない。いったいどれだけの奥行きがあるのか。

フォックスコンの工場群
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 歩き始めて2時間が経過するころ、食べ物の屋台や、屋台に毛の生えたような小さな食堂が軒を連ねる通りに出た。武漢(湖北省)、成都(四川省)、重慶(直轄市)、長沙(湖南)等々、中国内陸地方の味を供する店が並んでいる。これら5つの土地はいずれも1990年代以降、深センなど沿海地区に対する労働力の供給源として認識されていたところだが、現在はこの5都市すべてにフォックスコンの工場がある。したがってこれらの食堂は、内陸から深セン工場に働きに来ている工員らばかりでなく、深セン工場で研修を受けて内陸の工場に配属される人たちにも愛用されているのだという。

 ちょうど昼時。「FOXCONN」と胸や背中にプリントされたウィンドブレーカーやベスト、作業着を着込んだ10代、20代と思しき若者たちが、ひっきりなしに工場の門から流れ出してきて、1人で、あるいはグループで店に入り、食事をしている。麺あり、ご飯におかずをぶっ掛けた丼あり、土鍋を使った炊き込みご飯あり、小鍋を使った1人用の鍋物ありと、どれもうまそう。値段も麺類が6元(約80円)程度からと安い。食べたいのはやまやまだったのだが、成都、重慶、湖南などここに出ている地方料理はどれも激辛を特徴とする土地のものばかり。あいにく辛いものが苦手なので泣く泣く諦め、再び歩き出す。

地方料理の屋台が建ち並ぶ一角と昼食をとりに出てきたフォックスコンの従業員ら

 その屋台街を過ぎてしばらくすると、高速道路にさえぎられ、工場の敷地に沿って歩くことができなくなってしまった。仕方がないので、迂回して歩く。15分ほど進んだだろうか、再び工場らしき建物の一群があるエリアに入った。やれやれ戻ったかと思いきや、そこにあったバス停の名前を見るとこれがなんと、「華為総部」とあるではないか。日本でもモバイルWi-Fiルーターで知名度が上がってきた中国の通信機器大手、Huawei Technologies社(華為技術)の工場や研究所があるエリアに迷い込んでしまったらしい。ただ、方向的には合っているし、他に道はないので、Huaweiの工場群を突っ切ることにしたのだが、これがフォックスコンの工場に優るとも劣らない規模。2kmにも及ぶ一直線の道路の両脇に、ホワイトハウスのような迎賓館と思しき建物、ガラス張りの近代的な研究所、オフィス棟、工場が切れ目なく整然と並んでいた。

 ここから先は、ただただひたすら歩いただけ。見覚えのある「釣魚島」の串焼き屋の看板前でゴール。

 ポケットからiPhone 4を取り出し、インストールしてあるウォーキングアプリ「Walkmeter」を見る。合計移動時間は4時間23分、移動距離16.95km、1277kcalを消費していた。