意外に見えた和解

 このような状況で、この時点でのApple社とHTC社との和解の成立は、傍から事態の推移を眺めていた部外者には意外に見えるのではないか。というのも、2010年3月にApple社がHTC社を初めて提訴して以来今日まで、決定的な打撃をHTC社が被った事件があったようには見えないからだ。直近の予定では、11月27日に、Apple社がHTC社を提訴していた2件目の米ITC(International Trade Commission;米国際貿易委員会)調査で仮決定が出される予定であった。その結果が予想されたことが、和解への動機の一つになったかもしれない。ただし、Apple社にとって譲歩してもよいと考える外的要因もあった。例えば、HTC社の最近のスマホ製品の出荷台数および市場シェアともに急激に落ち込んでいる点だ。米IDCが10月25日発表したスマホの2012年度第3四半期の世界市場調査結果によると、HTC社の出荷数量が前年同期比で42.5%減少し、市場シェアも10.3%であったものが4.0%と大幅に減少している(表1)。すなわち、HTC社はApple社にとって市場競争において大きな脅威では無くなってきていた。むしろ、一連の激しい法廷闘争を繰り広げている間にも大きく売上げを伸ばしているSamsung社に対してより多くの資源を集中した方がよいという計算が働いても不思議ではない。

表1:2012年度および2011年度第3四半期メーカー別世界スマホ出荷数量と市場シェア(単位:100万台)<br>Samsung社の出荷数量がこの1年間で2倍と急増している。Apple社は出荷数量が57\.3%増加しているものの、市場シェアは1\.2%の漸増に終わった。HTC社は出荷数量、市場シェアともに大幅に減退している(資料:米IDC)。
表1:2012年度および2011年度第3四半期メーカー別世界スマホ出荷数量と市場シェア(単位:100万台)
Samsung社の出荷数量がこの1年間で2倍と急増している。Apple社は出荷数量が57.3%増加しているものの、市場シェアは1.2%の漸増に終わった。HTC社は出荷数量、市場シェアともに大幅に減退している(資料:米IDC)。
[画像のクリックで拡大表示]

 Apple社とAndroid陣営との特許世界大戦ともいえる一連の訴訟経緯を年表形式に列記してみた(表2)。重要な事件に限定して選んだつもりだが、予想以上に長くなってしまったので、筆者自身も幾分驚いている次第だ。その分、攻防の激しさを物語っているといえよう。

 2010年3月、Apple社がHTC社に対して3件の訴訟を起こしたのが事の発端だ。その1件目がITCへの提訴(調査番号337-TA-710)、2件目がITCへの申し立てと同じ特許10件の侵害を訴えた米国デラウェア州地裁への提訴(事件番号10-cv-00166)、そして3件目が同じく米国デラウェア州地裁への提訴であるが、異なる特許10件について侵害を訴えた(事件番号10-cv-00167)。166事件ではスマホOSの機能に関する特許が主であるのに対して、167事件の特許はユーザー・インターフェース、セルラー受信機、プロセッサ電力制御、デジタル・カメラなどに関連したものである。その後、2010年6月にApple社は、ビデオ技術関連特許2件についてデラウェア州地裁では3件目の事件となる新たな訴訟を起こした(事件番号10-cv-00544)。また、2011年8月にはApple社はHTC社による特許5件の侵害で同社にとって2件目となるITCへの調査請求を行った(調査番号337-TA-797)。