ノート・パソコンに加えて、PSPでもロケフリ機能が搭載されたことで、これまで以上に数多くのメディアで紹介され、販売に勢いが付いていった。中には、ロケフリを楽しみたいためにPSPを購入したユーザーがいたほどであり、PSPとロケフリの両者にとって相乗効果があったといえる。まさに、組織の壁を越えて実施した成果といえる。

 ノート・パソコンとPSPに向けたロケフリの成功を受け、携帯電話機やオーディオ機器などディスプレイが搭載されたものは、すべてロケフリを搭載していく動きが加速されつつあった。その対象は、ソニー製品にとどまらず、他社製品にも搭載していく予定であった。

縮小事業の対象に

 このように新たなステージの扉を開きつつあるロケフリだったが、またもや苦難に陥ることとなる。パソコン向けのLF-PK1が発売される直前となる2005年9月、新経営陣による経営方針発表会が実施され、不採算事業である15分野から撤退するという発表がなされたのである。発表時には、具体的な事業は明らかにされなかったものの、その一つに犬型ロボット「AIBO」などと共にロケフリが決定されたのだった。いかに本社の経営陣が、事業の状況とは無関係に、マスコミ受けが良い方針を打ち出していたかということだ。初のロケーションフリーテレビを発売して約1年、パソコン向けのLF-PK1をプレス発表した1週間後のことだった。2001年末に発売されたiPodが5年かけて一気に花開いたのがこの年であった。これでは、足を引っ張ることはあっても新規商品が育つわけもなく、長らくソニーから新商品が出てこないという原因の大きな一つであろう。

1既に、新規製品が生まれないと指摘されていたソニーの中で、久々となる世界初の商品であり、商品群を拡大する中で黒字化が見えてきた段階であることを考えると、「注力していく」と宣言したほうが新経営陣に対する期待度も上がったはずだ。もっと言えば、現状のビジネスを数字でしか判断できなく商品性を理解できない上で「選択と集中」を進めることを選択した本社スタッフと、それに対する明確な指示を出せなかった経営陣の力不足を露呈したといえる。

 本来であれば、経営方針発表に際して、本社スタッフだけ草案を作成するのではなく、事業を手掛ける現場の意見を聞いていれば、もっと違っていたのではと思う。最近でも「選択と集中」という言葉を掲げる企業は多いが、前回指摘した「全体最適」という言葉と同様に、都合の良い言葉である。つまり、選択と集中という言葉は、事業や商品が分からないものにとっては心地良く響くが、実際には選択だけで終わることがほとんどなのである。