皮むき器があるなら…

 デザイナーが試作した変形デジカメのモックアップを観察すると、フレームとレンズ、液晶ディスプレイの三つのブロックで構成されていることが分かる。黒川たち設計チームは、それぞれのブロックに対して、どういったポイントが開発の要になるのか考え、課題をつぶしていった。

 まず、変形デジカメの最大の特徴であるフレームの部分で壁にぶち当る。ユーザーがビデオ・カメラで撮影するような感じで利用する場合、フレームを握った際に剛性をしっかり確保できるか。大柄な米国人男性から小柄な日本人女性まで、さまざまな人の握力データを使ってCAE(computer aided engineering)でシミュレーションした。

「思ったより大変そうだぞ…」

 十分な剛性を確保するため、CAEの結果を参考にしながらさまざまな材料の検討に入る。その中で、アルミニウム合金の削り出しも候補に挙げた。実際に試作してみると、仕上がりは上々。デザイナーの思い描くイメージにぴったり合う。

液晶ディスプレイを取り囲むように配置したフレームは、開発の際に最も苦労した点の一つ。
液晶ディスプレイを取り囲むように配置したフレームは、開発の際に最も苦労した点の一つ。
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「カッコいい。でも、これじゃあ文鎮だよ。重すぎてカメラじゃ使えない」

 結局、採用を断念せざるを得なかった。

 黒川の胸は次第に、不安でいっぱいになる。とにかく、実現できる確証が欲しかった。それを求めて、街を徘徊する。スーパーマーケットに行ってはナベの取っ手を触り、アウトドア・ショップでは登山道具のカラビナの握り具合を確かめた。

 そんなある日、キッチン用品売り場で野菜の皮むき器を握る。

「これ、いいぞ!」

 “実地調査”で得た安心感とCAEによる計算から、最終的に、厚さ2mmのステンレス材に樹脂枠を施すことに決まる。ステンレス材で剛性を確保し、外側を樹脂枠で囲むことで造形美を表現するのだ。