譲っていいものダメなもの

 この他、液晶ディスプレイ部については「シンプルでフラットなものがいい」とデザイン・チームは主張した。洗練された印象を打ち出したかったのだ。

 当時は米Apple社の「iPhone」が出始めた頃で、フラットなデザインに注目が集まっていた。デザイナーとしては、最先端のデザインを取り入れたい。そこで、ボタンのないカメラに仕上げようと考え、タッチ・パネルだけですべての操作を済ませようとした。

 さらに、外周のフレームに静電容量方式のセンサを配置することも思い付いた。フレームをこすると撮影開始、たたけばシャッターを切る、親指の腹で横にさすればズーム、といった具合で操作する。

 デザイナーたちは「近未来的なことばかり考えていた」(長山)。一方、小野田は頑として首を縦に振らない。そして声を大にする。

最終製品には、シャッター・ボタンが付いた(左)。レンズ部は、デザイン・モックとほぼ同じ仕上がりになった(右)。
最終製品には、シャッター・ボタンが付いた(左)。レンズ部は、デザイン・モックとほぼ同じ仕上がりになった(右)。
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「我々はデジタル・カメラを作っているんだ。スマートフォンじゃない。シャッター・ボタンは絶対に譲らない。無きゃダメなんだ!」

 長山たちを説得するため、小野田はデジタル・カメラとして譲っていいものとダメなものを一覧表にまとめた。

「譲っていい機能や部品は確かにあるが、シャッター・ボタンは譲れない最後の1個だ」

 小野田が作成した一覧表の効果は絶大だった。「デザイナーはイメージ先行で作ってしまう悪い癖がある」(長山)。好き勝手に言い出して収拾がつかなくなったときは、一覧表を見直して判断基準にした。

 その後、シャッター・ボタンを配置する場所をめぐっても議論があったが、どの撮影スタイルのときでも操作できる位置として、液晶ディスプレイの横に決めた。結果的に、「そこしかなかった」(小野田)。

 膝を突き合わせた議論の末、お互いが納得した形で製品の全体像が固まった。そして2010年春、いよいよ実際の製品に仕上げる工程が始まることになる。=敬称略