そこで、この図にあるようにこれら4つの指標を2つの軸の両極においた分析フレームを作ってみました。すると、右上(第1象限)は識別性と成長性の二つの変数が当該ブランドの「将来発展へ向けた活力や潜在力の大きさ」を示し、一方、左下(第3象限)の共感性と定評性のスコアがブランドの「過去から現在にかけて蓄積してきた安定的資産の大きさ」を表示するグラフが出来上がりました。そして、左下(過去の資産)と右上(未来への成長性)を対比することにより当該ブランドのパワーが過去に依存しているのか、未来への投資に注力しているのかを分析するようにしました。その結果、間接的ではありますが過去から未来へ向かってブランド力がどのように動いているのか、そのダイナミズムが推測できるようになったのです。このように分析フレームを工夫することによって、「調査結果として得られるのは過去の情報」という調査の弱点を多少なりとも克服していくことが重要だと思います。

 図2に掲げた6種のパターンは実際に世界各国の消費者を対象に実施したブランド調査結果から演繹的に導き出された理念型です。比較的新しくてブランド力の弱いブランドの典型を一番左に置いて、その右側により強いブランドの典型的グラフを順番に並べていくと、ブランドの発展段階モデルが出来上がります。このような分析モデルに実際の調査データを当てはめると、調査にかけられた当該ブランドが現状どのステージに到達していて、従って次のステージに進むための課題や留意点が何であるかが解釈しやすくなるのです。

タイトル
図2

ユーザーが自分で使えるシステムが望ましい

 伝統的な調査分析では「調査設計→データ収集→統計処理→グラフ化→グラフから読み取れる情報のコメント化→形ばかりのレコメンデーション」という流れで作業が終わります。しかし私は現代の調査に必要なのは「データの分析モデルの開発→分析モデルを使った戦略構築方法論の開発→分析モデルに投入するデータの収集→データと分析モデルの統合→統計処理→分析モデル上のグラフィカルなアウトプット→戦略指針の自動生成」といったシステムを構築することだと思います。

 私が以前にコンサルティングを行なった韓国のある企業は自社のブランド力向上のためにまさにこのような分析技法を熱心に研究中でした。世界数十カ国で多岐に渡る製品カテゴリーに商品を投入する企業であれば、ブランド管理のマトリクスも巨大になります。その一つ一つのセルに対応して人力でブランド戦略を構築するのは困難ですから、ある程度自動生成的に現状分析と将来へ向けた問題点と機会点を探り当て、「次の打ち手」へつなげるような戦略ストーリーを示してくれるソフトウエアが欲しくなるわけです。

 そのためには、例えば図3にあるようにブランド構築の目的を購買意欲の向上に置いたブランド力評価調査を設計すれば、目的へ向けたブランド作りの進み具合をあたかも電気回路を設計するように組み立てていくことができるようになります。実際、このフレーム上にブランド調査結果を当てはめてみると、図4が示すような回路図が得られます。これを見れば、目的変数へ向かって個別のブランド価値項目がどのように連鎖的にブランド作りを動かしているのか、ブランド作りの効果的な回路が働いているのかどうかが見えてくるのです。このような分析モデルを用いたグラフィカルな結果表示ができれば、いちいち専門調査会社の手をわずらわさなくてもユーザーが自力で、半ば自動的に結果を解釈することも可能になります。

タイトル
図3
タイトル
図4

 さらに、このようなブランドの動態的分析モデル各種を備えた分析ソフトウエアと調査データを統合したシステムをクラウド上に備えておけば、企業トップから現場のブランドマネジメント担当者やマーケティング担当者に至るまで自分のパソコン上で自在に分析と次のステップへ向けた戦略立案ができることになるのです。