フューチャーセンターをつくろう — 対話をイノベーションにつなげる仕組み、野村恭彦著、1,680円(税込)、単行本、197ページ、プレジデント社、2012年4月
フューチャーセンターをつくろう — 対話をイノベーションにつなげる仕組み、野村恭彦著、1,680円(税込)、単行本、197ページ、プレジデント社、2012年4月
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 このことは、フューチャーセンターで対話の場を設定した企業は、必ずしもその場の主役ではないということを意味する。社会問題に関する対話では、自社の利点になる話題だけが取り上げられるとは限らないからだ。企業にとっては、かなりリスクのある取り組みだが、先行きが不確実な時代、つまり答えが分からない時代のイノベーションとは「自分たちの存在意義を問うことから始まる」のだ。それに気付き、真正面から課題に向き合った企業にこそ、次のイノベーションが見えてくるのではないだろうか。

 本書を読んで、2007年に発刊された『ウィキノミクス』(日経BP社)という書籍を思い出した。インターネット時代ならではの大規模な知的コラボレーションによる新たなビジネスのエコシステムが到来する。これを予言した名著だ。フューチャーセンターは、このウィキノミクスの発展型である。

 ウィキノミクスの発刊から5年。SNSなどのソーシャル・メディアや通信インフラの進化によって、ウィキノミクスを実現する環境は整った。ウィキノミクスには、四つの行動原理がある。(1)オープン性、(2)ピアリング、(3)共有、(4)グローバルな行動である。このうち、(4)を「(組織や業界の)枠を越えた行動」に置き換えれば、フューチャーセンターの行動原理と同義である。大規模な知的コラボレーションを実現する環境が整っている今だからこそ、誰もがフューチャーセンターの担い手となり、イノベーションを創発するための基盤を自らの手にできるのだ。

多様な視点による対話で気付きを得る

 フューチャーセンターを具現化する扉は誰にでも開かれている。Tech-On!の読者の皆さんは、商品開発や研究テーマ、新規事業のアイデアを考える際に閉塞感や限界を感じた経験が一度や二度ではないだろう。

 自社の研究者や大学の専門家といった身内だけが参加する閉じた世界の中でのコミュニケーションに終始するあまり、社内外の優秀な英知を集めて具現化したアイデアが市場での革新のスピードに遅れてしまう。これは往々にして起こり得る。それほど、世の中の革新は速度が増している。グローバルな情報社会では、専門家の英知が最先端ではないという事象が起きているのだ。

 フューチャーセンターの考え方で言うところの「多様なステークホルダー」とは、専門外の英知も指している。つまり、フューチャーセンターは、多くの視点からアイデアを発想するための装置なのである。技術や事業の最大化ではなく、解決したい社会問題に着目した対話の場を設けることで、これまで気づかなかった視点や新たな可能性を発見できる。それを目指すのが、フューチャーセンターだ。

 このコラムを読んで少しでも心がざわついた読者の皆さんは、ぜひ招待状の向こう側にあるフューチャーセンターに飛び込んでみてほしい。きっと、そこにあなたが開く新しい未来があるはずだ。

(復興庁 政策調査官)

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