「国進民退」とは

 近年、中国で盛んに議論されてきた「国進民退(国有企業が発展し、民営企業が退くこと)」とは、国有企業の存在感が高まり、民営企業の誕生と生存が難しくなり、既に誕生した民営企業の一部が市場からの退出を余儀なくされるといった市場経済化の後退を示す現象である。特に、2008年9月のリーマンショックとそれに対応するための政府対策の実施を受けて、その傾向が目立っている。

 中国政府は世界一流の企業を作ることを目標の1つをとしている。大きくて強い企業の育成を目指して、大型国有企業主導の合併・買収(M&A)による企業再編を推進している。そうして巨大化する大型国有企業は、独占の利益を維持するために、関連の行政当局に影響と圧力を与えて、市場参入の壁を高くする。それによって、競争原理の導入や市場開放による民間資本の参入は困難になってしまった。

 大型国有企業は、経営困難に陥った場合、政府からの資金と政策の援助を受けることができる上、中国国内では唯一無二の存在であり、独占企業として容易に利益を上げられるため、サービスの品質と技術の革新を向上させようという競争原理が働かない。結果、国際市場における競争力がフォーチュン500にランクインされた日欧米企業と比べて依然弱い。実際、世界の工場と呼ばれるようになった中国だが、それを支えるのは、あくまでも外資系の企業であり、特にフォーチュンにランクインされた日欧米企業である。フォーチュンにランクインされた中国国有企業は、中国の輸出にはほとんど貢献していない。

 2008~2009年の金融危機時、景気をいち早く回復させるために中国政府は4兆元の財政出動を実施した。前例のない大規模な景気刺激策による公共投資は、ほぼ国有企業によって独占されている鉄道、道路、空港のようなインフラ関連への投資に集中していた。国有企業は政府に過保護にされている。「温室育ち」の大型国有企業は、海外に出て世界一流の企業と戦う実力が本当にあるのか疑問だ。

 いずれにせよ、中国のマスコミとネットメディアによるフォーチュン500に対する熱心な報道振りは、中国企業が着実に成長していることの1つの証ともいえる。しかし、中国の国策とされるイノベーション創出による競争力の向上は、国有企業のフォーチュン500へのランクインだけでは不十分であり、民営企業によるイノベーションの活性化がなければ、実現できないだろう。