80点の人を集めたがる日本企業

 日本がリードしてきた言われるリチウムイオン電池の開発での日本の競争力維持についても雨堤氏は苦言を呈する。

「日本は相対的には弱くなっています。追いかけてくる韓国のお手本は日本。追い付く方と、目標にされる方では、戦略は違ってきます。今、韓国がいいから日本はそれを見習えという単純な話ではありません」

「電池の分野でも今までやってきたことをさらに細かくやろうという人が多いが、今までの仕事の進め方自体にメスを入れる発想をする人は少ない。私たちが20年近く前にやったプロセスを表面的に改良しているだけです。中国や韓国は日本を真似しているわけですから、我々は常に違うことしないと簡単に追いつかれます」

 さらに、こう続ける。

「Samsungが日本人エンジニアをヘッドハントしていたのは5年くらい前がピークでしたが、今は電池の分野でも急速に力を付け、パソコンや携帯電話向けといった民生用では日本メーカーと技術水準は一緒だと思っていいでしょう。日本の経営者はこれまでSamsungが破格の待遇で優秀な日本人をヘッドハントしていくことに危機感がなく、『そんな高い給料払って儲かるの?』といった程度でしかなかった。組織が新しいことに挑戦していくには、120点の人を何人か配置しないと突破できないが、日本の経営者は80点くらいの人をたくさん集めたがる。そういう人は、できないことの言い訳を考えるのがうまく、経営者に耳触りのいい話ばかりを上げる傾向にある。韓国の経営者は実力で120点の人を求め、それをしっかり処遇する。それが日本との大きな違いではないでしょうか」

 結局は日本企業の衰退は人材の登用術に難があることを示唆している。日本企業は優れた人材を抱えながらそれを使いこなしていないということでもあろう。こうした議論はすでに一部ではなされているが、ビジネスの最前線で戦ってきたエンジニアの雨堤氏が指摘するだけに説得力があると筆者は感じる。

Amaz研究所所長の森英雄氏
三洋電機時代は、一時期を除き雨堤氏の腹心の部下だった。
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 今まで紹介したような雨堤氏の志や問題意識に同調する強い「味方」も現れた。Amaz研究所の所長には森英雄さん(43)が就いた。森氏は大阪大学基礎工学部を卒業後に三洋電機に入社、大型リチウムイオン電池の開発に取り組んできた。入社以来、一時期を除き雨堤氏の腹心の部下だった。森氏は2011年10月末で三洋電機を退社し、Amaz技術コンサルティングに入社した。

 三洋電機は2011年秋、希望退職を募ったが、エンジニアは対象外だった。だから森氏には退職金の上乗せはない。それでもかつての上司の志に共鳴し、新しい道に挑むことを選んだ。「師弟コンビ」の挑戦に心からエールを送りたい。