胡坐をかくな

 話は変わるが、パナソニックが三洋電機を完全傘下に収めた狙いの一つが電池事業だったため、関係者によると、キーマンの一人である雨堤氏が退社したことを知ったパナソニックは「なぜあいつを辞めさせたんだ」と悔しがったという。

 退職後、雨堤氏は韓国のSamsung Electronics社から三洋時代の給料の手取りで2倍くらいの額で入社を誘われが、断った。その理由を「サラリーマンを辞めたのにまたサラリーマンに戻りたくなかったからです」と雨堤氏は語った。その頃から、自前の研究所を開設したいという大志もあった。

 雨堤氏はなぜ三洋電機を去ったのであろうか。これまで何度か雨堤氏をインタビューしてきた中で、企業における開発とはどうあるべきか、企業の競争力の源泉はどこにあるのかといった考えの中からそれが見えてくる。同時にそれは日本の産業界が抱える「課題」も浮き彫りにしている。

 まず、企業における新製品の開発はどうあるべきかについて雨堤氏はこう指摘する。

「三洋では新しい技術の商品化に次々と取り組み、それが成功してリチウムイオン電池ではトップに立ちました。そのプロセスで学んだことは、自分たちで生み出した技術は自分たちで潰していくことの大切さです。他社に潰されるということは競争で負けるということを意味します。平たく言えば『胡坐(あぐら)をかくな』という意味です。しかし、日本企業は今、それができない。自分たちのやってきた過去にいつまでもしがみついているからヒット商品が生まれません」