今、テレビにHTML5の実行エンジンを搭載する動きが活発になっています。韓国Samsung Electronics社が2011年に投入したスマートテレビにはWebKitベースのHTML/JavaScript実行エンジンが搭載されていますし、2012年秋から日本のケーブルテレビ事業者やNTTぷららが投入するセットトップ・ボックス(STB)に、やはりHTML5ベースのアプリケーション・ソフトウエア実行エンジンが搭載されます。さらに、2013年には放送と通信の融合サービス向けシステム基盤「Hybridcast」に対応したテレビが発売されるもようです。ここには、やはりHTML5のWebブラウザーがテレビに搭載されます。

 このように、各方面でテレビやSTBにHTML5の実行エンジンを搭載する動きが出てきているのは、テレビでインターネットのサービスを活用したさまざまなアプリを実行させたいためです。例えば、SNSや動画配信サービスなどと連動させたアプリです。もちろん、新しいアプリ開発・実行環境としてHTML5以外のものを用意して、アプリ開発者に専用のアプリを作ってもらうという考え方もあります。しかし、各社とも、HTMLとJavaScriptを扱える開発者の数やHTMLとJavaScript、およびHTTPをベースに作られたインターネット・サービスの数、さらに技術としての中立性の高さを考えて、HTML5を選択したようです。

 こうしてテレビまたはSTBでHTML5のアプリが動作するようになれば、これまでのインターネット・テレビでは実現が難しかったさまざまな使い方が出てくるでしょう。例えば、クラウド型のゲーム。HTML5対応のテレビでは、H.264などの映像を、画面を構成する要素として使えます。インターネットのサーバー側でゲームの映像を生成し、HTML5のアプリもしくはWebブラウザーにこれを配信できます。サーバーで連携させることで、スマートフォンやタブレット端末をゲームのコントローラ代わりにできそうです。これまでの標準的なJavaScriptの仕様では扱えなかったカメラやマイクも、標準的に扱えるようになるので、WebブラウザーやHTML5で記述されたアプリからカメラやマイクを呼び出して、テレビ電話を実現することもできます。この際、テレビに内蔵されていない外部のカメラやマイク(例えば、タブレット端末に内蔵されているカメラやマイク)を呼び出して使えるようにする仕様も現在、検討されています。

このように利用者にとっては、メーカーに関係なく、さまざまなサービスが利用できる時代になりそうです。逆にメーカーにとっては、HTML5に対応していくことで、どんどんと機器の差異がなくなっていきます。アプリの配信基盤で差異化することも考えられますが、基本的には同じアプリが、それぞれのアプリ配信基盤で配信されるだけで、やはりメーカー間の差は無視できるようになるでしょう。米Facebook社や米Google社、米Amazon.com社など、インターネット・サービス企業がさらに発展し、テレビ・メーカーはさらなる消耗戦を強いられるという状況になる可能性が高そうです。ただ、先に書いたように、HTML5をうまく使うことで、ネットワークにつながるさまざまな機器と連携することができます。個人的には、この仕組みをうまく使えばメーカーの独自色を打ち出せるのではないかと、期待しています。

 このコラムで書いた内容はもう少し詳しく2012年7月9日号の日経エレクトロニクスの特集「HTML5でつながる」に書かせていただきました。機会があれば、ご一読いただければ幸いです。