Trigence Semiconductorの安田彰社長
Trigence Semiconductorの安田彰社長

 2012年5月29日、法政大学発ベンチャー企業のTrigence Semiconductor(東京都千代田区)は、「米インテル社の投資部門であるインテルキャピタル(Intel Capital、カリフォルニア州)から出資を受けた」と発表した。投資額や今後の事業計画なの具体的な内容は、「当社とインテルキャピタルは公開しないことで合意している」という。独自技術の事業化を図っている日本の技術開発系ベンチャー企業に、米国のベンチャーキャピタル(VC)が“目利き”機能を果たして投資したという点で、話題を集めた。

 Trigence社は、デジタル家電やパソコン、車載用オーディオシステム向けのデジタル・オーディオ技術の研究開発を基にした事業を展開しているベンチャー企業だ。同社のコア技術は、デジタル・アナログ信号処理技術の「Dnote」と名付けたもので、スピーカーにデジタル信号を直接入力して駆動させて音を出す“デジタルスピーカー技術”である。従来に比べて、低電圧で低電力で音を発生させることができる点が注目を集めている。

同社の岡村淳一取締役開発部長
同社の岡村淳一取締役開発部長

 法政大教授とTrigence社の社長を兼務する安田彰氏は「今回のインテルキャピタルからの投資を受けて、これまでの事業の基盤固めのステージから、成長期に移る」と、ベンチャーキャピタルから投資を受けた意義を説明する。同様に、同社の研究開発や経理などの実務を引き受けている岡村淳一取締役開発部長も「当社の成長期を支える優秀な人材集めが今後の大きな課題になる」という。

 5月29日に同社がインテルキャピタルから投資を受けたとの報道記事が新聞やWeb系メディアなどに掲載された直後から「当社のWebサイトを閲覧する数が飛躍的に増えた」と、その影響を説明し、「当社の知名度が急激に高まり、事業展開や人材採用などの面でいくらかやりやすくなる効果を期待している」と、安田社長は語る。

 同社は、法政大の基盤的な研究成果を基に、その適用技術の事業化の可能性をあれこれと議論して新規事業の展開計画を練り上げてきた。この点は、先端的な研究成果を基に新規事業起こしを図っている、企業の研究者や技術者にとっても参考となる“苦労談”が多いといえる。大学発ベンチャー企業として、先進的な独自の研究成果をどのように企画して事業化を進めてきたのかという経緯を、安田社長と岡村取締役の二人に聞いた。

 Trigence Semiconductorは、2006年2月6日に資本金300万円で、有限会社として設立された。設立当時は、法政大大学院理工学研究科の准教授だった安田社長一人が事実上、実務を担当した。設立時点では、岡村取締役は別の企業に勤めていたために、“出資者”として参加した。

 「Trigence」とは、「三人寄れば文殊の知恵」ということわざを基にした「“3人の知恵”という意味を含めた造語」と、安田社長はいう。同社の創業に3人の人物がかかわったことから社名に取り込んだとの経緯を語る。この3人の中の一人は当然、岡村取締役である。

 安田社長は、2001年に企業から法政大大学院の准教授として着任し、半導体システム工学研究室としてアナログ・デジタル変換の回路技術などの研究を始めた。大学教員として、研究資金を獲得する過程で、文科省管轄の日本学術振興会の科学研究費助成事業に採択され、「デジタル直接駆動型スピーカの解析と高性能化」などの研究を始めた。

 安田社長が移籍した当時の法政大総長の清成忠男(きよなりただお)氏は、日本ベンチャー学会の会長を務めていた。「ベンチャービジネス」という言葉を日本社会に定着させた清成総長は、半導体系ベンチャー企業の創業者として有名なザインエレクトロニクスの飯塚哲哉社長と親しかった。