この変化は徐々に起こっていましたが、完全に潮目が変わり変化のスピードが加速したのはリーマンショック後でしょう。そしてこの変化を見誤ってしまったのは日本の家電企業だったのです。自らの成功体験によるよいものを作り続けたのです。逆に新興国のメーカーは新しい潮流に乗ることで成長してきました。

 カルロスゴーン氏は「人というものは動くものであるからグローバル化は止められない」という主旨の発言をされています。これはグローバル化が好きか嫌いかに拘わらず、ひとつの真理を表していると思います。人の移動が起こり、市場が新しく生まれ、その市場でパワーを誰が持っているかにより、市場のルールは変化します。

 世界に製品を売ってきた強烈な成功体験を多く持つ日本企業は、自らが市場のルールを作ってきたような自負があったのでしょう。ところが今、潮目が完全に変わりました。市場のプレーヤーが代わり、世界市場のルールは完全に変化したのです。

 市場原理は変わりません。消費者は自分たちの買えるものを買います。欲しいものを買います。買うものは、「安い」もの、そして高くても「魅力ある」ものなのです。

 消費者とプレーヤーが新興国に移り、彼等はそこそこの性能で安くて使えるものを買い始めます。このとき日本企業は、十分にそれらを供給できませんでした。今、日本企業はこの要望に応えようと海外に軸足を移しています。

 ところがもう一点、とても大切なことができていません。それは、新興国の消費者でも納得すれば、そして欲しいと思ったら「高くてもよい」商品を買うということです。新興国に行くと、例えばホテルで働いている若い人がiPhoneを持っています。彼らが持っているのは残念ながら日本製ではありません。価格的にはとても高いけど、それでも少ない給料を貯めてでもiPhoneを買うのです。

 彼らが買っているのは単なる携帯電話ではなく、アップルという会社のブランドだと思うのです。同様の製品が溢れかえる市場では、消費者は何を買うのか迷うことになります。そこで大きな力を持つのが「価格」であり、消費者がその商品を知っているという「ブランド」です。

 先日アップルから私に来た販促メールの冒頭にはこう書いてありました。

お父さんの目に、まったく新しい体験を。
父の日に新しいiPadを贈りませんか。
お父さんのためにスタッフがセットアップのお手伝いもします。

 まず冒頭に「新しいiPad」を勧めるキャッチコピーが書いてありません。そこには高精細ディスプレイを搭載した新製品がユーザーに新しい体験をもたらすことが書いてあります。製品は新しい体験をするための道具というのがアップルのスタンスなのです。製品の性能や機能を宣伝するのではなく、iPadという製品がもたらす体験を売ろうとしています。これがアップルのブランドを支えるひとつの戦略なのでしょう。