東日本大震災で大きな被害を受けたルネサス エレクトロニクス 那珂工場がどのように復旧を遂げたのか、取材しました。詳しくは日経エレクトロニクスの4月30日号、5月14日号、5月28日号の「ドキュメンタリー」コーナーに掲載しています。取材自体は2011年末から2012年初めにかけて行ったのですが、諸々の事情により掲載が遅れてしまいました。申し訳ありません…。

 掲載が遅れた結果、ルネサスの大規模なリストラ計画に関する報道と重なり、読者の方々から「せっかく震災を乗り越えたのに残念」「復旧に携わった社員は今回のリストラをどう思っているのか?」といった感想をいただきました。那珂工場の復旧ではルネサス社員はもちろん、自動車工業会や装置・材料メーカー、建設会社など多くの関係者が力を合わせています。大変な苦労で震災を乗り越え、そこで培ったさまざまなノウハウをこれから生かすという時に、このような事態になったことは本当に残念です。

 ルネサスはリストラなどの一連の報道に対して「当社から発表したものではありません」と述べていますが、近いうちに何らかの発表があるものと思われます。SoCの主力工場である鶴岡工場については、台湾TSMCに売却するとの報道が出ています。那珂工場が生産する車載向けなどのマイコンに関しても、TSMCに生産委託するとの発表が5月28日にありました(関連記事)。

 これまで高い信頼性が求められる車載マイコンなどでは、生産の外部委託は難しいと思われていましたが、東日本大震災で状況が一変したようです。今や自動車メーカーをはじめ、多くのチップ・ユーザーが国内だけではなく、海外でのマルチ生産を求めています。このため、ルネサスでは震災以降、200mmウエハー対応ラインで生産する0.15μm世代以前のマイコンについては、米GLOBALFOUNDRIES社でマルチ生産できる体制を整えてきました。2011年末には300mmウエハー対応ラインで生産する90nm世代のフラッシュ混載マイコンについてTSMCに生産委託することを決めています。さらに今回、40nm世代のフラッシュ混載マイコンの製造技術をTSMCと共同開発するとともに、その生産をTSMCに委託すると発表しました。

 こうした動きはマルチ生産を目指したものであり、「これによって国内工場が空洞化することはない」とルネサスは説明しています。しかし、コストの安いファウンドリー企業でマイコンを安定的に生産できるようになれば、いずれは外部への生産委託が主流になっていくと予想されます。その時、国内工場はスローデス(緩やかな死)に向かうのでしょうか。そうなったら、全力で復旧を成し遂げた技術者たちは報われないでしょう。国内工場を強く生まれ変わらせるための思い切った施策が、今こそ求められていると思います。