ただし、ここでいう新エネルギー車の定義は現時点ではっきりしていない。具体的にはハイブリッド車(HEV)が含まれるかは明確になっていない。HEVは技術的な壁が高いこともあって、中国車メーカーはEVに力を入れざるを得ない状況だ。ガソリン車に比べ圧倒的に不利な航続距離を補うために、レンジエクステンダ付きEVが必要になったというわけだ。

写真1●トヨタ自動車が2011年の東京モーターショーに出展したEV「FT-EV III」。年内に日米欧市場で発売予定(写真:日経BPクリーンテック研究所)
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 一方、トヨタ自動車は「EVは近距離移動用途と割り切っている」(同社技術統括部)。2011年の東京モーターショーに出展した「FT-EV III」をベースにしたEVを2012年内に日欧米の市場に投入する。充電1回あたりの走行距離は105kmとしているものの、ヒーターを使う冬季は50km程度になると想定する。あくまでもEVの使い勝手を理解したユーザーに向けた限定的な車両という位置づけで、無理に航続距離を延ばそうという中国メーカーとは考え方が異なる。

というのもトヨタは、2012年1月に日本で発売したPHVを次世代の環境対応車の柱に据えているためだ。トヨタのHEVの累積販売台数は400万台を突破し、北京モーターショーでもHEVのコンセプト車「雲動双●(ユンドンショワンチン、●は敬の下に手)」を出展した。このHEVで磨いた技術を基に、中国メーカーの新エネルギー車に対抗する。

 ただ、ここにきて懸念材料が明らかになってきた。充電規格の乱立である。

 ゼネラル・モーターズ(GM)やフォルクスワーゲン(VW)など米独の大手8社がEVやPHVの充電方式として「コンバインド・チャージング・システム(コンボ)」と呼ぶ規格を推進する方針を明らかにした。日本の自動車メーカーは電力会社などと共同で充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」を開発し、海外自動車メーカーにも採用を呼びかけてきたが実らなかった。

写真2●日産自動車のEV「リーフ」には充電口が2つある。ケーブルがつながっているのが急速充電用、右側がオレンジ色のカバーが普通充電用だ(写真:日経BPクリーンテック研究所)
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 コンボは、一つの充電プラグが普通充電と急速充電の両方に対応できる。これに対してチャデモは急速充電だけにしか対応していない。一方、チャデモは既に実用化している技術だが、コンボはまだ開発中にすぎない。この「2強規格」に加えて中国も独自規格を模索しているといわれ、充電規格の国際競争が激しくなりつつある。

 EVをめぐっては欧米メーカーと中国メーカーは協力関係にある。GMは上海汽車とEVの共同開発を進めているほか、独ダイムラーは中国大手の比亜迪(BYD)との合弁会社でEVを開発するとしている。日本メーカーに対抗するため、充電規格に関して共同歩調をとる可能性も考えられる。

 中国が政府の描くシナリオ通りに「EV大国」に成長するかはまだ分からない。しかし、多くのメーカーが多種多様のEVを投入する市場になることは確実で、その台風の目が中国が採用する充電規格になることが徐々に明確になりつつある。