「やっぱり、今のスマホはダメだと、はっきり言ってほしいんですよね―」。

 先日、とある懇親会の席で、取材先の方にこう言われました。現状のスマートフォンの、電池駆動時間の短さについて話題が及んだ時です。

「こんなに電池が持たないんじゃ…」

 もちろん我々も、スマートフォンの電池持ちの悪さについては、大きな課題であると認識していたつもりでした。日経エレクトロニクスの特集で「そのスマホ、電池持ちますか」(2012年4月2日号)という記事を企画したのも、そうした問題意識があったからです。この特集はおかげさまで多数の方にお読みいただき、様々な反響をいただきました。

 しかし、読者の方からこのようにご指摘いただくと、メッセージをもっとはっきり示してもよかったのかなとも感じています。「こんなに電池が持たないんじゃ、携帯機器として必要条件を満たして無いよね。そこをもっと厳しく突っついてほしかったな」。もっとずばり、本質というか、携帯機器のあるべき姿にまで言及してほしかった…そのようなご指摘でした。

 それを伺っていて、改めて認識したのが、「今のスマートフォンの姿は、決して最終形ではない」ということです。現行のスマートフォンは、様々なアプリをダウンロードでき、自分好みの機能を楽しむことができる。動画だって、ワンセグもあれば通信網経由の動画配信サービスだって受けられる――などなど、いろいろ機能があります。しかし、ユーザーが楽しみたいことをすべて実行するには、電池の持ちに不安があることから、電源アダプターや補助のモバイルバッテリーを持ち歩く必要に迫られるなど、決して十分とはいえない状況にあります。

 かくいう私も、当初スマートフォンを購入した際には、無線LANのアクセスポイント機能(いわゆるWi-Fiテザリング)が付いていることから、「これでモバイルWi-Fiルーターは不要になるなあ」と期待していました。ところが、実際にはスマートフォンのWi-Fiテザリング機能はほとんど使うことができていません。1日、普通に使っているだけで電池がなくなってしまうため、加えてWi-Fiテザリング機能まで実行してしまうと、電話やメールなどの基本機能が、実行できなくなってしまうことが心配なのです。

今のイメージを打ち破るものを

 逆に言えば、この状況はチャンスでもあります。今のスマートフォンの不満を解消するソリューションを提示できれば、その技術なり、そのサービスは、大きな注目を集め、その企業は存在感を高めることができる――。当たり前といえば当たり前ですが、やはり「ユーザーが不満に抱く点にこそ商機がある。現状に満足していては次の製品は生まれない」ということだと感じます。

 スマートフォンと言えば、端末メーカーにしろ半導体/部品メーカーにしろ、コモディティ化が進んでしまったことで、将来の市場成長を不安視する声が多く聞かれます。それはやはり、スマートフォンというイメージが固定化し、それを実現する部品やソフトウエアなどの供給メーカーの顔ぶれも固定化しており、「新たな市場参入機会を感じにくい」機器になりつつあるからでしょう。各社とも同じOS、共通のプロセサなどを活用し、似たり寄ったりの製品企画となり、閉塞感すら感じられます。

 恐らく現行のスマートフォンの姿をなぞるところからは、このような閉塞感を打破するような、次のイノベーションは生まれにくいのでしょう。現状のフォームファクターや利用イメージを超えるものを提示し、それが例えば、電池駆動時間を大幅に改善するといったものがあれば、我々が勝手に作ってしまった“スマートフォン”という常識を突き破ることができるのではないか。「スマートフォンの定義をガラリと変えてしまうようなものを創ろう――」。こうしたメッセージをもっと伝える必要があると感じます。

 例えば、最初にご紹介した取材先の方は、ディスプレイの革新技術に注目しているそうです。「次は必ずディスプレイにイノベーションが来ると思う。それは液晶パネルとか有機ELとか、既に本命視されているものではないものだ」と。「2割とか3割長持ちという話ではインパクトが無い。やはり10倍長持ちといった、ずば抜けた特性向上を実現しないといけない」と言いながら、2015年~2020年に向けてR&Dに取り組んでいるそうです。

 こうしたユーザビリティの実現には、端末ハードウエアだけでなく、ネットワーク側やシステム、そして公共インフラにも組み合わせていく必要があるかもしれません。非接触充電でカフェや駅のちょっとしたスキマ時間に充電というのも、必要になるでしょう。スマートフォン単体での解決を超え、インフラと組み合わせながら、結果的にユーザーの使い勝手を大きく改善するという解です。

 スマートフォンの電池を長持ちさせるための取り組みは、これからまだまだ続きそうです。このために必要な要素技術やシステム技術の発展について注目しながら、現状のフォームファクターに適合しないような技術も、次世代の携帯端末を創造する目線から、見逃さないようにしていきたいと思います。