「スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場」、西田宗千佳著、780円(税込)、新書、192ページ、アスキー・メディアワークス、2012年4月
「スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場」、西田宗千佳著、780円(税込)、新書、192ページ、アスキー・メディアワークス、2012年4月
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 家電メーカーの経営状況は厳しい。
 本書執筆時点(本年2月)でも各社年度末決算の下方修正予想が伝えられていたが、その後の報道では、最終赤字額がシャープ3760億円、ソニー4566億円、パナソニックに到っては過去最悪の7721億円に膨らんだとのこと。いずれもテレビ不振が響いた結果である。

 では、なぜそんなにテレビが苦しいのか。
 本書前半で、著者の西田氏は日本のテレビメーカーがどのようにしてサムスンやLG電子などの韓国勢に負けていったのかを、液晶テレビの技術的背景をふまえて分析する。かつて世界一の品質と売り上げを誇った日本メーカーが敗れていく様子を追体験するのは、日本人として忍びない。だが、まず現実を見つめることが必要だ。

 日本製テレビの市場シェアが低下したのは様々な要因が複合した結果であるが、あえてザックリと端折ってみると、日本のメーカーが画質にこだわっているうちに、韓国勢は画質を犠牲にして“薄さ”を追究した。それが世界市場に受け入れられたのである。

 家電エコポイントや地デジ移行という追い風でテレビは売れたが、それは将来の需要の先食い意味していた。なまじ国内にそこそこの需要があるから海外市場を優先できない、という構造的問題を指摘する人もいる。

 負けた原因をふり返ったところで、次に出てくる質問は、「では、どんなテレビなら世界市場で戦えるのか」「次のテレビ――スマートテレビは、どのようなテレビを志向しなければならないのか」ということだ。韓国メーカーの後塵を拝している今こそ、新しいテレビの潮流をいち早く打ち出していかなければならないのだ。

 白黒のブラウン管でスタートしたテレビは、やがてカラーになり、ステレオ放送や、文字放送、EPG、デジタル化に伴う画素数の増加、液晶化、3D化など次々と新しい技術が発明され、普及していった。
 しかし、著者の西田氏は、画質をのぞくと「リモコンの登場」「録画の登場」くらいしか本質的な革新はなされなかった、と言っている。しかも、欧米で普及しているケーブル・テレビや衛星放送では同じ番組を何度も放送するので、日本ほど「録画」のニーズは高くない。

 となると、新しいテレビ視聴体験を提供するスマートテレビは、「操作性の革命」から生まれるものに他ならない、と著者の西田氏は断言する。

 どのように「操作性の革命」を実現するのか、という具体的なイメージは本書をご覧いただくとして、著者が取り上げたいくつかの実例の項目だけでも紹介しておこう。

 一つは、テレビのコンピュータ要素が強まること。それに伴ってCPU処理性能の向上が要求されること。サムスン電子の会見では、デュアルコア搭載が予告されているという。

 二つ目は、スマートフォンの技術がテレビのパフォーマンスを上げること。昨年11月の本欄で取りあげた『ウェブ進化最終形 「HTML5」が世界を変える』でもHTML5の革新性が強調されていたが、スマートフォンの優れた操作性やHTML5が相まって、テレビの操作性が劇的に向上する。

 三つ目は、スマホ、タブレットの普及がコンテンツも変えること。テレビにグーグル社のアンドロイドOSを入れる、という安直で強力な方策が予想されるし、スマホ、タブレットとスマートテレビが連携する機能も魅力的だ。

 四つ目は、リモコンの改善。マイクロソフトが同社のゲーム機「Xbox 360」で実現したジャスチャー認識技術や、各社携帯電話の音声認識技術がリモコンを劇的に使いやすいものにする。

 スティーブ・ジョブズが「iPhone」の発表会で、「電話を再発明した」と豪語したことは有名だが、やはり“テレビを再発明”するような画期的な視聴体験は、ジョブズのように突き抜けている人間にしかできないのかもしれない。

 しかし、ジョブズが亡くなった今、アップル社だけにアドバンテージがあるわけではない。新しいテレビ視聴体験を創出したメーカーこそが、今の苦境から最初に抜け出すことになるだろう。

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■著者紹介
浅沼ヒロシ(あさぬま・ひろし)
ブック・レビュアー。
1957年北海道生まれ。
日経ビジネス本誌、日経ビジネスオンライン連動企画「超ビジネス書レビュー」(2011年9月終了)のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。
ブログ「晴読雨読日記」、メルマガ「ココロにしみる読書ノート」の発行人。
著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。
ツイッターアカウント:http://twitter.com/syohyou