土地の提供のほか、保税区に進出させることによる税の減免、宿舎やシャトルバスの無償提供。そして人集めについても、無償で政府が請け負うことを条件に、フォックスコンは四川省への進出を決めたとしている。

 先の社員は、「四川省が提供するこれら数々の優遇があるから、成都工場のコストはトータルではかなり安くなる。だから、会社としてはできるだけiPadの生産は成都で行い、どうしても成都で受けられないものだけを深センに回すのが基本方針だ」と指摘。よって、人手不足で成都で生産できないのは、フォックスコンにとって相当な痛手になるとしている。

 四川省がここまでフォックスコンを支援するのはもちろん、同社が地元にもたらす巨大な経済効果や雇用創出を期待してのこと。中国紙『21世紀経済報道』(3月3日付)は、先に紹介した成都の第6世代LTPS工場の起工式を伝えた記事の中で、四川省に対するフォックスコンの経済的貢献を紹介している。それによると、2010年7月から成都工場でiPadの生産を開始。さらに11年5月には、同省綿陽市政府、中国系テレビ大手の四川CHANGHONG(長虹)社と共同で年産5000万台規模のスマートフォン生産基地を設立することで合意。成都のLTPSパネル工場を合わせ、これら3つのプロジェクトで、フォックスコンは四川省に2015年までに新たに6000億元分の生産高をもたらすものと見込まれている。

 地方政府が一つの企業に行き過ぎと思えるような優遇を与えるのは、なにも四川省だけに限ったことではない。フォックスコンも生産拠点を置く、湖北省のある開発区の関係者は、「進出企業に対する優遇については統一の規定があり明文化もされている。しかし実際には、個別交渉で具体的な条件を決めるケースがほとんど。企業によってもらえる優遇策に大きなバラつきが出るのは珍しいことではない」と話す。

 とはいえ、「政府総動員で人集めをするなど、公の資源を一つの企業にこれだけつぎ込むのはあまりにも不公平。他の企業が同様の待遇を求め始めたら収拾がつかなくなる」(『中国江蘇ネット』4月29日付)といった批判も出始めている。地方政府の提供する特別扱いを前提にフォックスコンや提携相手が事業計画を立てられなくなる日が来るのは、そう遠い先のことではないのかもしれない。