丸紅は「今後、欧州で蓄積したノウハウを、洋上風力の導入が見込まれる北米や日本、アジアで生かし、洋上風力事業を世界的に展開する」(山本チーム長)計画だ。福島沖の実証事業はその第一歩となる。

図2●三菱重工の着床式洋上風力発電設備のイメージ
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 三菱重工業は、英電力会社の協力を得て、洋上向け7000kWの大型風力発電設備を開発中で、英国沖の洋上風力発電事業への設備納入を目指している(図2)。

 風力発電ではブレード(羽根)を長くして出力を増やすほど、1kW当たりの発電コストが安くなる。陸上風力ではブレード運搬の都合から、2000kWが限界だが、船で運べる洋上ではさらなる大型化が可能になる。このため、ドイツのシーメンス社やデンマークのヴェスタス社、フランスのアルストム社など風力発電設備大手はこぞって、6000kW~7000kWの洋上向け大型風力発電設備の開発を急いでいる。

 ところが、各社が共通して悩んでいるポイントがある。それは、長いブレードが発する巨大な回転力をどのように発電機に伝えるかである。まず、ブレードの軸につないで回転数を変換し発電機に伝える歯車(増速機)に強烈な力が加わるため、耐久性に課題が出てくる。それを避けるには、いわゆる同期発電機を使えばよい。低回転数のまま発電でき、歯車が不要になるからだ。しかしここにも問題がある。同期発電機に組み込む永久磁石にはレアアースを多用するため、コストがかさんでしまうのだ。

 そこで三菱重工が製品化を目指しているのが、ブレードの回転力を油圧で発電機に伝える油圧式洋上風車である。油圧式なら歯車は不要で、通常の誘導発電機が使えるのでコストも下がり、将来的には1万kWの大型風車も可能になる。

 この技術は、英ベンチャーのアルテミス社が開発し、特許を持っていた。三菱重工は2010年12月に同ベンチャーを約20億円で買収し、独自技術として手に入れた。2012年8月にはこの油圧伝達技術を導入した2400kW機を横浜の自社工場内に稼働させ、2013年には7000kW機を英国の海岸に着床式で設置、実証運転する計画だ。そして、いよいよ2014年にはその成果も踏まえ、福島沖に浮体式の7000kW機を設置する。

震災後に計画を前倒し

 もともと経済産業省は、まず2012年から千葉県銚子沖で着床式の2400kW機を実証し、5年後くらいに浮体式の実証事業を想定していた。環境省は2013年から長崎県五島市沖に2000kW機を浮体式で設置する実証事業を進めているが、商品として競争力のある6000kW~7000kW機を設置する計画はなかった。震災の復興予算によって、浮体式7000kW機での洋上風力の実証が数年早まることになった。三菱重工と丸紅が、欧州企業を買収し、積極的に洋上風力のノウハウを蓄積していたことが、この前倒しを可能にした。

 浮体式洋上風力を巡っては、メーカー間の開発競争と並行して、国際標準化でもすでに各国がつばぜり合いを演じている。風力発電設備は、陸上と着床式洋上に関しては、欧州がリードしつつIEC(国際電気標準会議)で国際標準が決まっている。そんななか、2010年3月に韓国が「浮体式」の国際標準化をIECに提案、これを受けてサブグループが設置され、2011年9月から韓国がリードする形で議論が進んでいる。

 こうした国際標準を巡る動きや、福島沖の実証事業で浮体式洋上風力の実用化が予想より早まってきたことから、国土交通省が主体となって、日本でも2011年度に専門家による委員会が設置され、浮体式洋上風力設備の安全確保のための技術を検討し始めた。そして2012年4月、技術基準を作成した。船舶安全法に基づき構造や設備の要件を定めたものだ。福島沖の実証事業にも適用し、IECでの国際標準化にも積極的に関与する方針だ。

 このように再生可能エネルギーの“本命”として、洋上風力発電設備の開発競争、標準化争いが活発になっている。着床式洋上までの風力発電技術は、欧州企業がリードしてきた。実際、英国沖ウインドファームで回る3000kWの着床式風車は、シーメンスとヴェスタスがシェアを分けている。福島沖で実証する浮体式設備をきっかけに、日本が一気に世界をリードできるか。日本の重工業の底力が試される。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。