3月末、シャープとの資本・業務提携で注目を集めた台湾Foxconn(フォックスコン=鴻海)社だが、5月に入ってもEMS/ODM業界では話題の中心であり続けている。

 5月16日には、フォックスコンが大株主を務めるパネル大手の台湾Chimei Innolux(CMI=奇美電)社で、筆頭株主のChi Mei(奇美実業)社が経営からの離脱を表明するという動きがあった。奇美実業が派遣する法人役員1人と、同社の背景を持つ監査役2人の3人が辞職。これにより奇美実業は、CMI取締役会から全面的に退くことを決めた。

 CMI経営の主導権を巡って2大株主である奇美実業とフォックスコンのトップ、郭台銘董事長が対立しているといううわさはこの数年、市場に何度も浮上した。特に2011年1月、スマートフォンやタブレットPCの台頭で成長が期待できる中小型パネルとタッチパネル事業をCMIから分離・分社した上で上場することを郭氏が計画。しかし奇美実業側がこれを渋ったため計画は宙に浮いた。これを機に郭氏は、CMIと切り離す形でタッチパネル事業の推進を図る方針に転換したのだが、この一件で、郭氏と奇美実業側との対立は修復不可能なところにまで進んだものと見られていた。

 シャープとの提携を発表した当日の3月27日、フォックスコンは公示で、CMIに対する増資を今後3年にわたり続けて行くと表明。また市場や業界では、シャープとCMIの主力製品が重ならないことから、補完関係が築けるとの見方もあった。ただ一方で、フォックスコンがシャープの10世代工場の生産能力の半分を引き受けるとしたことから、フォックスコンが最終的にはCMIを切り捨てるとの見方も出ていた。

 台湾の市場や業界では、CMIの後任の役員人事がフォックスコン主導で行われるとの見方で一致しているのだが、中でも注目を集めたのは、台湾の夕刊紙『聯合晩報』(16日付)の記事。当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)でも「シャープ、パネルの台湾CMIに役員派遣か フォックスコンが実権掌握」として報じたのだが、フォックスコンの意向を受け、シャープが役員を派遣する可能性が極めて高いというものだ。

 聯合晩報は、「郭台銘・董事長は過去1カ月、足しげく日本に通い、シャープとの協力について細部を詰める作業に奔走してきた」と指摘。「シャープとの具体的な提携内容は5月末にも公表されるが、奇美実業が経営から退くことで、シャープがCMIの経営陣に入る公算が極めて高くなった」との見通しを示した。

 CMIの陳彦松スポークスマンは5月16日、「合併によりCMIが誕生した時点で、大株主である奇美実業の立ち位置は出資者としてのもので、経営者としてではなかった」と強調。その上で、奇美実業に所有するCMI株を放出する計画がないことを強調している。ただ、台湾の市場関係者や識者の中には、CMI株の取得に食指を動かす中国系資本があることを指摘する向きもある。