「DBJキャピタル1号投資事業組合」は国内の企業が対象の知的財産ファンドだったために、続いて2010年10月に国内・国外の企業を対象とした「DBJキャピタル2号投資事業有限責任組合」を設けた。

 中小企業やベンチャー企業が立案した独創的な新規事業に必要な要素技術をすべて自前でそろえることが現実的にはほとんどあり得ない。このため、新規事業に必要な要素技術となる“技術”を、大学や公的研究機関、企業などが持つ未利用特許などの中から見つけ出し、知的財産のライセンスを受ける形で入手することが有効な手段になる。この新規事業に必要となる技術の見極めを、知的財産ファンドの投資担当者として、山口取締役たちは実施している。

 未利用特許などをライセンスする大学などの組織にとっても、未利用の知的財産を“キャッシュ”化でき、研究開発投資をある程度回収できるという利点が生じる。一方、ライセンスを受けた中小企業やベンチャー企業は、新規事業起こしに必要な要素技術を入手するための研究開発期間を短縮でき、事業化を早期に立ち上げることができる利点が生じる。

カーブアウト方式によって、
大企業が持つ未利用特許などを活用

 最近は大手企業が持つ特許などの知的財産を、そのままでは事業化できない場合に、“カーブアウト”と呼ばれる事業化手法が注目されている(図1)。大手の当該企業が、事業化を目指す製品の市場規模が小さいと判断すると、自社内では新規事業起こしを手がけず、中小企業やベンチャー企業などに当該の知的財産を提供し、新規事業起こしを任せるやり方である(場合によっては、新企業を設立する)。

図1○DBJキャピタルが描くカーブアウト方式の模式図(図はDBJキャピタル提供)
図1○DBJキャピタルが描くカーブアウト方式の模式図
(図はDBJキャピタル提供)

 このカーブアウト方式では、当該大手企業は当該知的財産を提供するだけではなく、場合によっては研究開発を担当した研究者や技術者などの人材も提供する。この場合、知的財産ファンドを運営するDBJキャピタルは、カーブアウトさせる新規事業として目指すターゲット市場を分析し、新規事業のビジネスモデルを十分に吟味した上で、自社内で投資判断をし、新規事業に必要な資金を投資する。その後も、新規事業のマーケッティングや資金調達などを支援する。

 実際に、大手製薬企業が保有する未利用特許などの技術群をDBJキャピタルが評価し、その中の「創薬合成技術」を切り出す“カーブアウト”を行い、大手製薬企業も出資してベンチャー企業を創設したケースがある。その企業に、「取締役を派遣したり、研究開発資金を投資するなどの支援を実施した」という。そのベンチャー企業の創薬合成技術の進展に必要となる創薬ライブラリー(創薬候補となる新薬スクリーニング用の化合物群)を米国の大学からライセンスを受ける交渉を担当し、その独占実施権を獲得するなどの支援も行っている。