シュムペーター(Joseph Alois Schumpeter)の論では、イノベーションとは技術革新はもとより、商品革新、生産革新、販売革新、調達革新、市場革新、企業革新など、生産や生産物に関係するあらゆる要素の“新結合”から生み出され、創造されるものである(本連載第6回参照)。これまでの日本はイノベーションを、多分に技術に偏重してはいたが“新結合”として捉え、その実践で世界をリードしてきた。
 しかし、ここ半年余り、とりわけ家電業界や半導体メーカーに関連したニュースを聞くたびにつくづく思い知ることは、より多様な“新結合”(もちろん、技術イノベーション力は強みとして維持しながら)によって市場を創ることや、あるいは他社の起こす”新結合”の要素への同乗(便乗ではなく)ができなければ、世界的なビジネスのトップグループから脱落せざるを得ないという現実である。

 今回は、まず“新結合”(イノベーション)を継続して起こしやすくするための考え方に触れ、次に企業の「川上力の強化」について述べる。

イノベーションを起こしやすくする方法論

 どうすればイノベーションを継続的に起せる企業にできるのか、ヒントになりそうな考え方に触れておく。それは次の3つである。
  1. オープン・イノベーション
  2. モジュラー型アーキテクチャ
  3. ひとづくり

<1. オープン・イノベーション>
 1つ目のヒントは、ヘンリー・チェスブロウ(Henry Chesbrough)の「オープン・イノベーション」である。その目的・趣旨を箇条書き的にまとめると下記となろう。
・ 複雑化する企業の技術(研究)開発を、効率的かつスピーディーに変えていくために
・ 閉鎖的な自前完結主義(垂直統合型)を捨てて
・ オープンに、柔軟に外部からも技術、知財、知恵、知見を調達・活用する(水平分業型)
・ あるいは、逆に自社の知財を外部にも出していく(適切に保護しながら)
・ これらによる新しい価値を効率よく創造するパラダイムやビジネスモデル
 これは、今の時代にイノベーション(“新結合”)を効率よく起こすための“How to”である。シュムペーターによるイノベーションの定義から約1世紀、まさに非連続で劇的な“新結合”の変化を経て到達した、21世紀の方法論であろう。米国産業界の復権戦略の1つである、生産物をモジュラー・アーキテクチャ型志向にしていく必然性をも含んでいる。例えば、オープンソースを基軸としたソフトウエア・ビジネスもこの延長線上にあり、その分野では既に世界のビジネスに広範な影響を与え始めている考え方ではないか、と筆者は思っている。