思わせぶりなタイトルですが、3月下旬からつい数日前まで、私が担当した二つの仕事に関する言葉を並べただけです(単純ですいません…)。一つは「任天堂」をテーマにした日経エレクトロニクスの企画記事、もう一つは、SiCやGaNといった次世代パワー半導体をテーマにした別冊です。前者は日経エレクトロニクス2012年4月16日号に掲載され、後者は4月24日に発行予定です。そこで今回は、この2件について、紹介したいと思います。

 ご存じの方も多いと思いますが、任天堂は苦境に立たされています。売上高は2008年度の約1兆8400億円をピークに年々下がり続け、2011年度の売上高はその約1/3の6600億円に落ち込み、赤字になる見通しです。

 その一方で、スマートフォン向けゲームやソーシャル・ ゲームの事業会社が急成長しています。環境が厳しさを増す中で、任天堂はいかにして復活を目指すのか。そこが記事の出発点でした。と言いますか、任天堂のゲームが好きな私としては、「復活して欲しい」との思いがあります。

 任天堂へは、報道機関向けの発表会を除き、日経エレクトロニクスの取材が入ることはめったにありません。仮に取材が入ったとしても、今後の方策についてはあまり多くを語らない。それは、人々を驚かせるエンターテインメント企業としては、当然の姿勢なのかもしれません。発表前からネタをバラしてしまっては、驚きが小さくなります。

 そこで今回の記事では、任天堂の次世代ハードウエアの機能から、同社の今後の方策を探りました。とはいえ、「ニンテンドー3DS」は既に発売から1年以上が経過していますが、据え置き型ゲーム機の次世代機「Wii U(ウィーユー)」の詳細はまだ分かりません。2012年4月26日に予定されている2011年度の決算発表の場で、追加情報が発表されるかもしれませんし、少なくとも同年6月に開催予定のゲーム業界の世界最大級の展示会「E3 2012」で、Wii Uの詳細が明らかになるでしょう。その発表を待ってから記事化することも考えましたが、その前にある程度予測して記事を書いてしまう方が面白いかなと考え、弊誌4月16日号に掲載したわけです。

 では、任天堂が再び高収益企業に返り咲くために描く成長戦略は何でしょうか。詳細は4月16日号に任せますが、ゲーム人口の拡大から“ゲーム接触時間”の拡大が、新たな施策のキーワードであると考えています。

 任天堂はこれまで、「ゲーム人口の拡大」を旗頭に、「ニンテンドーDS」シリーズや「Wii」でゲーム好きだけでなく、ゲームに関心の薄かったユーザーまでも引き込みながら、自社の事業拡大を実現してきました。ゲーム・ユーザーの裾野を拡大することで、売り上げを伸ばすという戦略が功を奏してきたわけです。

 ところが、スマートフォンの利用増に伴い、ゲーム人口拡大の牽引者が、「任天堂」から「スマホ」に移りつつあります。このため、ゲームを楽しむ人口が増えているものの、それが任天堂の業績に直接結び付かなくなっています。そこで、ゲーム人口の拡大だけに頼らない戦略が必要になってきた。それが、ゲームへの接触時間の拡大だと考えています。

 ここでのゲームとは、単なるビデオ・ゲームだけではなく、ゲームの要素を含めたものも指します。ユーザーにビデオ・ゲームを“直接”遊んでもらうだけなく、日常生活の至るところにゲームの要素を溶け込ませて、“間接的に”任天堂の ゲームに触れる時間を増やすのです。

 任天堂はかつて、体重測定をゲームにしました。「Wii Fit」です。「バランスWiiボード」と呼ぶ、体重計のような台座型コントローラに乗りながらWii Fitを楽しみます。つまり、体重測定という日常生活の一部をゲーム化したわけです。最近の流行語で言えば、一種の「ゲーミフィケーション」です。

 Wii Fitの以前には、「ポケットピカチュウ」という歩数計を1998年に発売しています。ユーザーの歩数に応じて、「ピカチュウ」というキャラクターが成長するものです。これはウオーキングをゲーム化したわけです。そもそも、DSシリーズでヒットしたお勉強系ソフトも、日常の学習行為をゲーム化したものです。

 ゲーム接触時間の拡大は、こうした路線の延長線上にあります。3DSやWii Uで、この路線をさらに押し進めるのではないか、と考えています。そして、日常生活の場面でゲームの要素をうまく溶け込ませることができれば、ユーザーは知らず知らずに何らかの形で任天堂のゲーム、言い換えれば任天堂の“世界観”に触れることになります。

 この目的をどう実現するのか。ここまでお読みいただき、ご関心を抱かれた方は、ぜひ弊誌4月16日号をご一読いただければ幸いです(記事紹介ページ)。

 と、すっかり長くなってしましましたが、私のもう一つの仕事、SiCやGaNといった次世代パワー半導体をテーマにした別冊についても少しだけ紹介させてください。本別冊では、2010年〜2012年3月にかけて発表された、SiCとGaNに関連するニュース記事のほか、技術解説記事を載せました。技術の話題だけなく、市場動向や特許の話題も取り上げています。最近、にわかに注目を集めている酸化ガリウムを用いたパワー素子の論文も掲 載しました。

 現行のSiはともかく、SiCやGaNに関する最新動向や開発事例などを効率よくまとめてある書籍はほとんどありません。そこで今回の別冊は、その一助となるべく、編集いたしました。(紹介ページ

 そして、この別冊の発行を記念(?)し、6月26日にはパワー半導体のセミナーを都内で開催します。三菱電機の方に、IGBTとSiCデバイスの研究開発事例を、パナソニックの方にはGaNデバイスと、SiCやGaN時代に必要な駆動技術や設計技術についてご講演いただきます。富士電機の方には、SiCダイオードを搭載した産業機器向けインバータ装置や、SiとSiC、GaNデバイスについてもお話しいただく予定です。このほか、SiCデバイスを作製するのに欠かせないSiC基板の動向を知っていただくために、同分野に力を入れている新日本製鐵からも講師をお招きします。

 もちろん、アナリストの方に市場動向も語っていただく予定です。こちらのセミナーも、ぜひご参加いただければ幸いです。よろしくお願いいたします(セミナー紹介ページ)。