通勤数学1日1題、岡部恒治著、1,365円(税込)、単行本、184ページ、亜紀書房、2011年8月
通勤数学1日1題、岡部恒治著、1,365円(税込)、単行本、184ページ、亜紀書房、2011年8月
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 通勤途中に英語を勉強する人はたくさんいますけど、どうせ勉強するなら数学がオススメですよ。1日10分ずつ数学に触れて数学力がつけば、仕事にもきっといい影響が出ますよ!――というコンセプトで書かれた本である。

 1回2~4ページの分量で、ほとんど全てのページが図入りなので、とっつきやすく、しかも分かりやすい。技術者のみなさんが書店でみかけても、きっと手に取らないと思われるくらい、一見すると簡単な内容に見えるほどだ。

 分かりやすく書かれているのは理由がある。著者の岡部氏自身が、かつて計算が苦手で「5段階評価で2」の成績だったからだ。計算ができなくて記憶力も悪かった岡部少年はなぜか数学が大好きになるだが、そのきっかけは、数学の本質が分かれば複雑な計算を省略できる!ということを発見したからだそうだ。

 長じて数学者になった岡部氏は、みんなが難しいと思っていることをやさしく解説する教材をつくったり、子ども向けの出前授業を進んで引き受けたりするようになった。本書は、そんな岡部氏のおもしろ解説集である。

 では、岡部氏の解説がどれほど簡単か、実例を見てみよう。

 第1章は「やみくもに計算しない!」がテーマである。

 たとえば、3月のカレンダーの数字を全部足すといくつになるか、という問題。

 1+2+……+31

このように頭から足していくのは芸がないのでダメ。できるだけ簡単な方法で解くことを考えてみよう。

 ガウスが6~7歳のころ、この種の問題を数秒で解いたというエピソードが残されているので、Tech-On!読者であれば、解法をご存知のことだろう。そう、最初と最後の数をペアにして2で割ると、「1+31」は「16+16」と同じになる。同じく、2番目と終わりから2番目の数をペアにして2で割ると、「2+30」は「16+16」と同じになる。

 こうして「16+16+……」が31回繰り返されるので、答えは「16×(30+1)=480+16=496」と暗算で計算できる。

 第2章からは、図形を細かくスライスするイメージを駆使することによって、台形の面積、扇形の面積、そして東大入試にも出た円すい台の面積を簡単に求める方法を解説する。

 図形を細かくスライスする考え方はいろいろ応用が利き、四角柱を斜めに切った図形の体積、三角柱を斜めに切った図形の体積が、すらすらと解けていく。気がつけば第4章の終わりに「すいの体積=底面積×高さ÷3」という公式が導き出された。

 「三角錐の体積は、同じ底面積の三角柱の体積の3分の1」とはじめて教わったとき、「たしかに2分の1よりは小さく見えるけど、どうして3分の1なの?」と疑問に思ったことを思い出す。まして、四角錐も円錐もそれぞれの「柱」の3分の1というのは納得できなかった。むしろ、四角錐が四角柱の4割で、三角錐は3割、円錐は2割、と言われたほうが感覚に合い、本当らしく感じたことだろう。仕方なく「すいの体積=柱の体積÷3」という数式だけは覚えたのだが、納得できない思いが残ったものだ。

 その「すいの体積」の公式を、なんと! 40年ぶりに理解して納得できた。本書を手に取った甲斐があるというものだ。

 余談になるが、先日、買い物にいく車中で家族と雑談していたとき、「小学校でならう分数のかけ算や中学校でならう方程式なんて、実際の生活で使わないよね」とカミさんがつぶやいた。

 よせばいいのに、私は不用意にも「そうかな、僕は仕事で使っているよ」と言ってしまった。

 「そりゃ、あなたの仕事には必要でしょうけど!
  私はふつうの人の話をしているの!!
  あー、やだやだ。だから理系はキライだよ」

 しまった。また、やっちゃった! 「そうだねぇ」と言っておけばよかったのに……。技術者の皆さんも、一度や二度は同じ思いをしているのではないだろうか。
 まあ、そんな私なので、本書に載っている問題の答えは知っているものが多かったが、答えを導きだす方法をこれほど分かりやすく説明する岡部節には舌を巻いた。

 しかも、後半に行くにしたがって、問題はだんだん高度になっていく。
 私も間違えたのは、「固定した歯車の周りで、同じ大きさの歯車を1周させたとき、1周した歯車は何回転するか」という問題。「歯車の数が一致しているのだから、1回転に決まっている」と考えたあなたは大間違い。正解は2回転なのだ。

 最後の第7章では、歯車の回転数の考え方を応用して、宇宙の法則をひも解いてくれる。
 理系人間でも「地球の1年間の自転数は365回転ではなく約366回転」という事実を知っている人は少ないに違いない。
 本書の解説を読み、私は「80日間世界一周」のオチを思い出した。そうか、そういえば、主人公が80日間で世界を一周するあいだ、ロンドンで経過していたのは80日ではなかった。それは……。

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