一方で、台湾系メーカー各社は、薄氏の解任よりもむしろ、同市ナンバー2の黄奇帆市長の動向が、重慶ノートPC産業の今後の行方を左右するとの見方を示しているようだ。

 当社もウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)で「台湾系PC企業『市長も退任なら重慶のノートPC基地激震』」と題した記事で伝えたのだが、重慶をノートPC生産の世界拠点にする計画は、現市長の黄奇帆氏が副市長時代の2008年に陣頭指揮を執って始めたものだ。黄氏は同年5月、自ら米のHP本社を訪れ重慶への誘致活動を展開。その後、進出を決めたHPの要請に応じる形で、フォックスコンをはじめとする台湾系の受託生産大手が相次いで重慶進出を決めたという経緯がある。

 重慶に進出する台湾系企業の団体、重慶台湾企業協会の黄錦鄖会長は、「今回の一件で、台湾系メーカーが重慶投資に懸念を覚え始めているのは確かだ」とコメント。「例えば、フォックスコンと関係のある台湾系のある部品メーカーは1カ月前に、重慶の西永に6万6700平方メートルの工場用地を獲得したのだが、薄書記の解任に連動する形で黄市長も退任することになった場合、重慶当局が承諾していた補助を受けられないのではと懸念し始めている」と話している。

 中国の日刊紙『重慶日報』(3月22日付)によると、薄氏の後任として重慶市書記に就任した張徳江副首相は同21日、同市を訪問したAcerの王振堂董事長と会見。「重慶は今後も改革開放路線を断固堅持し、対外開放についても一貫性、安定性を保っていく」と強調し、王氏に安心するよう呼びかけた。また、黄奇帆市長もこれに先立つ20日、HP、フォックスコンなど重慶に進出するノートPC関連業者20数社の代表を招いて座談会を開催。「重慶市はこれまでに与えた承諾を忠実に守る。ノートPC産業に関する優遇政策を履行していく」と強調。「中国の西部大開発にかかわる優遇政策や、重慶に両江新区、両路寸灘保税港区、西永総合保税区を設立するための中央政府の許可は、いずれも国が長期的な視野に立って重慶を支持する方向を示したものだ」と述べ、重慶をノートPC生産の世界的拠点に育成する計画に変更がないことを強調した。

 大揺れに揺れる重慶を尻目に、勢いづいているのが先にも紹介した成都だ。共産党中央が薄氏の解任と後任として張徳江副首相の就任を発表したまさにその当日の3月15日、成都市政府はWistronの成都工場の稼働を記念する式典と、成都に自動化設備の生産・研究開発基地を設立する独Siemens社の着工式を大々的に開催。さらに、成都進出を決めたWistron関連の部品メーカー50数社を集めた合同調印式を開いている。台湾の業界筋は、「重慶書記の解任に当てつける形で、成都当局が意図的に大々的な式典を開いたのは明白」との見方を示している。

 政策の朝令暮改や、政治の動向による経済政策の揺れは、これまでにも一貫してチャイナリスクの一つに数えられてきた。今秋の党大会で最高指導部が入れ替わる今年、生産拠点の大半を中国に置くEMS業界も、中国政治の動向に当面、一喜一憂することになるのかもしれない。