台湾系のEMS/ODM企業が深くかかわる土地で最近、政治的に大きな動きがあった。ノートPC生産で世界最大の拠点作りを目指していた中国の直轄市・重慶のトップ、薄煕来氏の解任劇である。今秋の共産党大会で、中国の最高指導部である政治局常務委員会入りが有力視されていた薄氏の解任は、内外に驚きを持って受け止められた。

 この解任劇に肝を冷やしているのが、広東省や上海など沿海地区から重慶に生産拠点を移したEMS/ODMメーカーだ。

 重慶市当局は、同市を年産8000万台規模のノートPC生産の新たな世界拠点に育成するとして2008年以降、PCブランドメーカーや受託生産メーカーを積極的に誘致してきた。その結果、現在までに重慶には、米Hewlett Packard(HP)社、台湾Acer社、台湾ASUSTeK社のブランド3社のほか、これらブランドの生産を手掛けるQuanta Computer社、Compal Electronics社、Inventec社、FOXCONN(フォックスコン=鴻海精密)社、Pregatron社、Wistron社の台湾系受託生産6社が生産拠点の設立を決定。さらに200を超す部品・材料メーカーも進出を決めるなど、ノートPC産業サプライチェーン構築を進めてきた。

 それが今回、薄氏の解任による重慶指導部の混乱で、ノートPC製造の世界拠点にする方針が転換されたり、薄氏らが示していた優遇策がご破算になったりするのではないかとの懸念が浮上している。

 台湾紙『旺報』(3月16日付)によると、Acerの汪島雄スポークスマンは15日、「当社のノートPC出荷全体に重慶の占める割合は2011年、35%に達した。12年にはこの割合が50%まで上昇する見込みだ」とコメント。その上で、「当社は重慶の未来に対し自信を持っている。なぜなら、重慶は中国中西部開発の象徴的存在であるからだ」と述べた。

 しかし台湾紙『経済日報』(16日付)によると、Acer、ASUSTeK、Compalなどの台湾系メーカーは、薄氏解任の報を受け、水面下ですぐさま、生産拠点を重慶から、やはりノートPCやタブレットPCメーカーの誘致を進める四川省の省都・成都へシフトすることを含め、いくつかの可能性についてのシミュレーションを行ったと報じている。

 別の業界筋によると、Wistronでは12年のNB出荷のうち、重慶と成都でそれぞれ4割を出荷する予定。そして同社が重慶、成都の両地に生産拠点の設立を決めたのは、今回のような政治的混乱による、いわゆる「チャイナリスク」をあらかじめ想定し、保険をかけたためだと指摘している。

 成都にはフォックスコンが米Apple社のタブレットPC「iPad」の生産工場を2010年から稼働しているほか、Compal社、米Dell社、中国Lenovo社も生産拠点を設けている。