インターナル・ブランディングのお手本

 もっと身近な例は福井市の三和メッキ工業にあります。日本ではもう既に有名なのでしょうが、この会社では社員のやる気を引き出す、まさに「Internal branding」の手段として「めっき職人」という合言葉と、社員自身を描いたちょっとカッコいいイラストを使っています。自分たちは「めっき職人」であってそれ以外の何者でもない、「めっき職人」を名乗ってそれに恥じない仕事をすることがプライドと収益の源泉である、という意識を一人ひとりが持つことで会社全体が生き生きと動いている例です。

 さらに踏み込んで、三和メッキ工業ではメッキ技術に関する要求には「できないものはない」と宣言しています。もちろん実際問題「できないこと」はあるだろうと思います。が、最初から限界を設定せずに、無謀なチャレンジも良しとする気風が社員の自立と創意工夫を生むのだと思います。

 実のところ、こうした内部向けの合言葉やスローガンを持っている企業や事業体は多いのだろうと思います。しかし、それを活用してインターナル・ブランディングを成功に導くためにはいくつかのキーポイントがあります。まずはそのスローガンが納得性が高く社員が共感できるものであるかどうかです。それには制定のプロセスが重要になってきます。小さなオーナー企業なら社長が自分で決めても構いません。規模の大きな会社だと役員や事業部長たちの合議で決めるケースが多いでしょう。いずれの場合でも、それが経営層の単なる思い付きではなく事業の持続的成長と社員の自己実現を目的としたものであることが説明できなければなりません。その上で、スローガン自体を簡単明瞭で行動に反映させやすい、社員の「背中を押してあげる」表現にしなければいけません。

 さらに、スローガンや合言葉は最前線の技術者や営業職だけでなく、管理や総務などのバックヤードを含む社員全体、正社員もパートタイマーも学生インターンにいたるまで全員で共有し実践しなければいけません。ブランド作りは社員の一挙手一投足の積み重ねです。その途中でたった一人の不注意な言動で積み上げたイメージが崩れてしまうことも多々あります(最近では社員のツイッターでの不用意な発言が問題となるケースが散見されます)。三和メッキ工業には職人だけでなく営業や事務方の社員もいます。要はそれぞれの持ち場での皆の努力が同じ未来を目指していることが肝要なのです。