◇日本:方向は押さえているが、やや内向きか
 “国づくり”の上位戦略は2010年の「新成長戦略」であろうか。その骨子に7つの戦略分野の基本方針・目標とする成果がある。

(1)グリーン・イノベーションによる環境・エネルギ大国戦略:総合的な政策パッケージによる世界ナンバーワンの環境・エネルギ大国
(2)ライフ・イノベーションによる健康大国戦略:医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業
(3)アジア経済戦略:切れ目ないアジア市場の創出
(4)観光立国・地域活性化戦略:観光産業、農林水産分野の成長産業化
(5)科学・技術・情報通信立国戦略:科学・技術力による成長力の強化、IT立国・日本
(6)雇用・人材戦略
(7)金融戦略

 戦略の姿勢として強調されていることは、経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出のきっかけとし、それを成長につなげようとする政策で、(1)と(2)を成長戦略、(5)(6)(7)を成長を支えるプラットフォームとしている。加えて「新成長戦略」においては、規制の緩和や縦割り省庁を越えた推進体制構築もうたわれ、重要施策の21を国家戦略プロジェクト位置付けている。
 この方向性には異論もないのだが、少し気になる点が2つある。1つは、「経済社会が抱える課題の解決」について、国内の課題解決優先という姿勢は至極当然なのだが、最初からアジア全体・世界の課題解決に目を向けた施策も必要と感じる点である。もう1つは、課題解決に加えた「新提供価値の創造」に対して、「クールジャパン」以外は触れられていない点が残念である。印象としてはやや内向きであると感じる。
 並行する形で、技術立国を支えてきた基本政策である科学技術基本方針の第4期版が2011年8月に閣議決定された。それによると、フレームとしては(a)震災からの復興・再生 (b)グリーン・イノベーション(環境配慮型エネルギ源の実用化、エネルギ利用の効率化・スマート化(基盤としてICTの基盤開発を含む)の推進 (c)ライフ・イノベーション(医療・介護・健康)の推進 (d)科学技術イノベーションの推進(産学官の共同化、国際標準化の戦略策定、先端的な科学技術の成果を有効に活用した創業活動の支援を含む)を示している。こちらの方が“国を挙げてのもの・ことづくり”に近いが、グローバルな“ことづくり”に対しては、少し控えめな印象を受ける。

 以上、各国の基本政策を見てきて分かるとおり、どの国も戦略的に産業構造改革を似通った方向(“ものづくり”や“もの・ことづくり”)で打ち出している。いずれ、競争相手も協業相手も同じ市場にひしめき合うことになることは間違いない。従って、日本においてはさらなる戦略の練りこみ・絞り込みと、具体的な実行への落とし込みが求められている。


日本における“もの・ことづくり”を可能にする構造とは