◇中国:サービス業の成長へ向け構造転換
 第12次5カ年計画で、戦略的産業として7 分野〔(1)省エネルギ・環境保護 (2)次世代情報技術 (3)バイオテクノロジ (4)ハイエンドの製造設備 (5)新エネルギ (6)新素材 (7)新エネルギ自動車〕を掲げ、GDP(国内総生産)の継続的高成長を目指している。また、第1次・第2次・第3次産業のバランスの確保、科学技術の振興をとおして産業の高度化を図る。「世界の工場」という工業輸出に頼った成長から、サービス業も発展させる成長への構造転換を打ち出してきている。
 ものづくりの多くを日本に学び世界第2位の経済大国になった中国だが、今後米国でビジネスを学んだ留学生が中心になって、米国流の起業化をする時代になるだろう。米国に次いで“ことづくり”を積極的に発信する国家になり得るし、その手段としての“ものづくり”もできる大国になるのではないかと思う。

◇欧州:これまで蓄積した知識をICTで生かす
 これまで築いてきた成長や進歩が、欧州経済危機でストップした。岐路に立つEUが構造的弱点克服の思いを込めてつくったであろう『欧州2020』の中期成長戦略は、新しい方針として、(1)知的な経済成長(知識とイノベーションを基盤とする経済) (2)持続可能な経済(競争力と気候変動・エネルギ・モビリティ) (3)包括的経済成長(雇用・技能と貧困撲滅)、を挙げている。そのもとに7つのテーマ別アプローチとイニシアチブを掲げているが、「欧州産業の長期競争力確保に向け、国際基準に影響力を発揮する」という欧州の伝統的な世界戦略が入っている。
 (1)の「知的な経済成長」では、イノベーションおよび知的移転の促進、イノベーションおよび知識移転の促進、ICT(情報通信技術)の最大限の活用、革新的なアイデアの新製品・サービスへの転換によって成長を生み出すことが必要としている。  もともと機械、航空・宇宙、化学、デザインの分野に強い欧州が、これらを方向付けて展開してくると、世界の標準化も含めた強力な“もの・ことづくり”のできる地域を形成可能と思う。

◇韓国:10大ハイテク分野とICT産業育成
 「2003年10大新成長動力産業」として、10分野の集中育成産業、すなわち(1)デジタルTV (2)ディスプレイ (3)知能型ロボット (4)未来型自動車 (5)次世代半導体 (6)次世代移動通信 (7)知能型ホームネットワーク (8)デジタルコンテンツ・ソフトウエア・ソリューション (9)次世代電池 (10)バイオ新薬 を示している。実際に、ハイテク家電、半導体では厚い産業層が形成されて、それらを機軸とした“ものづくり”で世界をリードしそうな勢いを持っているのが現在の韓国だ。2011年のIT産業政策では、スマートTV、スマートヘルスなどIT融合新産業と、その基盤としてのセンサ産業を国全体で育成する戦略を打ち出している。
 アフリカ、中南米への家電製品普及の実績、先進国へのスマートフォン、タブレット端末での成功を基盤として、ハイテク分野+ICTによる“もの・ことづくり”を、国として目指していることが強烈に伝わってくる。

◇シンガポール:バランスの取れた理想的戦略
 1999年より『インダストリ21計画』(知識集約型産業の世界的ハブを目指す)により、下記9分野を戦略的産業と位置付けて、その世界的ハブを目指してきた。その9分野は(1)エレクトロニクス (2)石油化学 (3)生命化学 (4)エンジニアリング (5)教育サービス (6)医療サービス (7)物流 (8)通信・メディア (9)地域統括サービス、である。さらに、7つの重要戦略を挙げており、それは(1)技能とイノベーションによる成長 (2)製造業とサービスにおけるグローバル・アジア・ハブの構築 (3)活気と多様性のある企業構成の確立(多国籍企業、中堅企業にとって)(4)イノベーションの普及と研究開発成果の商品化強化(連携プラットフォーム創設) (5)スマートエネルギ経済の構築 (6)将来の成長に向けた土地生産性の向上 (7)卓越した国際都市・愛される故郷の建設 である。
 筆者は、“国を挙げてのもの・ことづくり”のバランスのとれた戦略、その実践と成果の好例がシンガポールにあるのではないかと思っている。

◇日本:方向は押さえているが、やや内向きか