「だから、だからどうなのよォ! 女だから、だから何なのよォ!」。
 やれやれ、アスパラがお局を怒らせてしまったようですヨ。

 「ひえ~っ、すみません、ごめんなさい、悪気はありません、つい、つい言ってしまったんです。口癖みたいなものです、ごめんなさい~」。
 もう、アスパラは泣きそうです。

 「おいおい、一体どうしたんだい。お局も許してやれよ。アスパラも、つい口に出てしまっただけのこと、ナァ、そうだろう?」。
 「そうなんです、ぼ、ボク、本当に先輩のこと尊敬してますし、女だからなんて思ってはいません。ただ、つい口に出てしまったんですぅ…」。

 朝からの大騒動、つまり、お局が何気なく言ったことを、アスパラが「それは女性だから…」と言ってしまったようなんですナ。

 話の内容? ははは、それが、取るに足らない事なんですヨ。ほら、国際派のお局から見ると、最近のユーロ諸国の金融危機、それを主導しているドイツの首相、その仕事ぶりを、お局はもっと厳しく主導権を発揮した方がいい、そう言ったのですヨ。それをアスパラが、首相は女性だから…、と言ってしまったという訳ですナ。

 本当にどうってことない話ですが、お局にすれば、女性だろうと男性だろうと、首相なんだから、一国のそれもユーロを先導するべきドイツの首相なんだから、もっとガンガンやって欲しい、それを言いたかっただけなんですが、どうも、アタシ達の周りでは、この「女だから」と、つい思ったりすることが、案外、多いのではないでしょうかねェ。

 「それはそうよ、俺達の若い頃は、よく『女みたいなことを言うな』とか、『女の腐ったようなダメなヤツ』なんて、よく言ったもんよ。しかし、よくよく考えてみれば、何の根拠も、そもそも、女だからどうのこうのなんて言うこと自体、オカシイ話よ。でもよ、そんな会話をしても女性は何も言わなかったし、男性だって、それがおかしいと思わなかったじゃないか。一体、いつから男女が平等になったんだろうか」。
 そうそう、部長の言うように、いつから男女は平等になったんでしょうかねェ

 「だからァ、アンタ達オトコはバカなのよォ! アタシが言いたいのは、『女』ということを言うのが悪いとかイヤと言っているのじゃなくて、事の本質を考えないで、単に『女だから』と言って、それが原因だと決めているのがおかしい、そう言っているのよ、ったく。いい、アンタ達オトコは、何かの会話の中で『男だから』と言う時は、決まってイイ話、あるいは肯定的な場合にのみ使うじゃない。例えば、『男だからやるしかない』とか、『男をあげる』とか、冗談じゃないわよ! 極め付けは、『男を下げるような…』っていう場合、もう最低! 、だってそうじゃない、下げるってことは、最初から高い位置に居るって、それが前提になっているってことよ。アンタ達は、生まれながらに男性が優位、そう思っているのがダメだっていうの! 世界中を見てごらんなさいよ、今時、女性だとか男性だとか、そんな事を言って仕事をしている先進国なんてありゃしない。ねえ、そうでしょう!」。

 確かにお局の言う通りですヨ。アタシ達男性は、いや女性の中にも、ついつい「女だから」と言ってしまいますが、その根拠は勿論、本質的に考えた事はありませんヨ。

 なのに言ってしまうてェ事は、気持ちの中に、女性の方が男性より劣るという漠然とした尺度と言いますか、ものの見方が存在しているようですナ。この話、アッサリと謝って済むもんじゃありませんヤネ。

 「元々、人類は生まれてからずうっと今まで、基本的には女性を崇拝して進化して来たのよ。当たり前だけど、女性は子供を産み、そして育てるのよ。産み育てる、それは人間だけでなく、動物の世界でもメスにしかできない事じゃない。そう考えれば、敢えて言うならメスが優位、優性なのよ。それを、人間の、しかもオトコだけが女性は劣性だと考えているなんて、本当にバカ、そう言うしかないでしょ!」。

 確かに、冷静に考えれば、アタシ達は何気なく「女だから」と思っていますが、何の根拠もありませんヤネ。そして、お局の言うように、よく考えて生物学的に見れば、女性の方が優位と言えるかもしれません。
 でも、ついつい「女だから」と言ってしまう。一体、何で言うのでしょうか。

 「次郎さん、やっと本質的な話になって来たわねェ。『女だから』と、男性が言ってしまう訳、それは、人類は仕事をするようになり、その仕事の中で男女の区別をして来た、それもチカラ仕事の中での区別、それだけのことよ。会社だって家庭だって、仕事をする中でチカラが必要なところは男の仕事で、チカラが不要なところは女の仕事、そう思っているのよ。本当に単純ね、男って。チカラで男女を区別して、それがいつの間にか能力的なこと総てが男性優位になっているという勘違い。それだけのことよ。つまり、肉体労働のチカラ的な区別を、そのまま能力的な区別に持ち込んでいる、そなんなバカな論法を、無意識に中に持ち込んでいるのが、オ・ト・コ、なのよ」。

 「せ、先輩、そう、その通りですよ。確かにチカラ的な側面での違いを、能力の違いだと思ってしまうのが、男の浅はかなところなんですよ。先輩に解説していただいて、ようく理解できました」。
 当のアスパラが、何かホッとしたようですヨ。

 「ははは、アンタが解ったかどうかは別にして、いい、二度と言うんじゃないわよ、『女だから』って」。
 どうやらお局のおかんむりも治まったようですヨ。

 ってな話で、今夜も赤提灯…。

 「いやあ、一時はどうなるかと思ったぜェ。俺達はつい、何気なく言っちまうが、お局に言わせると、ちゃんとした理由があるんだなあ。確かに、チカラ仕事で分けると、女性にはできねえこともあるけれど、その他の事になるてェと、かえって女性の方が優性かもしれねえナァ」。

 「部長、もういいわよ。それよりもこれからは、本来、女性にも出来るのに仕事をさせなかったような事を、改めてほしいのよ。それこそ女だからっていうだけで、女性にさせなかった仕事、かなりあるんじゃないかしら。例えば、ウチの製品の設計にも、もっと女性を投入するべきだと思うの。だってそうでしょう、ウチの製品を使う人、つまりお客さんは男性だと思っているらしいけど、今時、機械装置を使う人は男性とは限らないわよ。トラックやダンプカーを見れば判るけど、随分と女性ドライバーが増えたじゃない。それと同じで、ものづくりの現場には女性のオペレーターが増えている。当然、彼女たちが使うウチの機械や装置に、女性の視点での設計が必要になっている筈よ、ね、部長」。

 「おうよ、そうかもしれねえナァ。確かに、今時の工場の現場、高度な機械装置の扱いも、女性の方が理解が早いって言うぜェ。制御系の入力なんざァ、女性の方がテキパキとこなすって、よく聞く話だよ」。

 「そうそう、ボクも新幹線の切符を買う時、女性の駅員が、切符の端末を目にもとまらない速さで操作しているのを見て、ああ、ボクには絶対に出来ないと思ったことがありましたよ」。

 「でしょう、あれも女性向きかもしれないわ。PCの入力だってそうじゃない。キーボードの打ち込みスピードだって、絶対に女性の方が速いし、しかも正確だわよ」。

 …呑むほどに酔うほどに…。

 「ねえねえ、それよりも、絶対に女性にさせた方がいい職業があると思うの。それは何だと思う?」。
 突然、お局のクイズです。

 「ええっ、そんなこと言われてもなあ、思いつかねえよ」。部長も、そしてアタシも降参です。

 「ふふふ、それはね、軍人、兵隊さんよ。そもそも、男が軍人をやっているから戦争が起こるのよ。もしも軍人が全員女だったら、戦争なんて起こらないわよ、絶対に。何かの紛争があった時には、それこそ、先ずは女性同士で話し合うと思うの。メンツもコダワリも全部捨てて、とにかく合理的に話し合うことが出来るのが女性の本能よ。だってそうでしょう? 命を生み、育てることが出来る女性が、殺し合うなんて絶対に有り得ない。勝つか負けるかより、合理的に棲み分けを図るのは、女性の方が上手な筈、だから、絶対に戦争なんて起きないわ」。

 う~ん、そうかもしれません。確かに、どこかの国の女性の首相が、自国領土に進行された時、すぐさま軍隊を派遣して領土を守りましたが、あれが両国の軍隊が全員女性だったら、直ぐに戦争とはならないでしょうネ。女性だからこその、ある意味での「抑止力」が働くと思うのですヨ。
  
 「でしょう? 家庭だけではないのよ、女性が守るのは。国を守るのも、家庭を守るのも、女性は同列で考えるわ。何も殺し合うことまでしなくても、何とかして解決策を探るのが女性、いや本当の人の道ではないかしら。人間の争いは、全部、男性が起こしたことよ、反省しなくちゃ!」。
 いやあ、ごもっとも、それしか言えませんヨ。

 さあさあ、そろそろお開きと致しましょう。てなことでお勘定、勿論、割り勘です。
 と、そこにお局が、「お勘定? こんなとき、女に生れて良かったと思うのよねェ、次郎さん、おごちそうさま!」って、これって変じゃありませんか。あ~あ…。