また、台湾のICT産業の観点から分析してみると、台湾では半導体産業クラスタは十分に整備されており、ICチップのファブレス、Siファウンドリ、パッケージング(封止)の各業界で世界トップレベルの実力を誇る。だからこそ、日本企業と手を組んで、最先端分野のフォトリソグラフィや3次元ICパッケージングなどの技術を共同で開発することを望んでいる。一方、日本の業界や産業の視点から見ると、日本のメーカーは、付加価値の高い化学品や川上分野材料の研究開発に特化している。とりわけ、多機能型モバイル製品の薄型・軽量化が進む中、チップと基板の層の厚さは、わずか0.05~0.1mmまで微細化しており、日本企業の高い材料技術がなければ、耐久性や品質が高く差異化可能な特徴ある製品を作り出すことはできないのが現状だ。

 東日本大震災後、重要部品の供給中断という危機を目の当たりにして、日台間の産業バリューチェーンにおける分業の重要性が一段と浮き彫りになった。台湾の産業クラスタの優位性が、日台協力関係の強化を後押しするに違いない。

3. 日本産業発展の裏方、「バックアップ基地」としての台湾

 日本は世界最大の電子材料供給国だ。それにもかかわらず、日本の電子材料メーカーは、韓国勢の台頭、運営形態の変化、新興市場進出への出遅れ、円高といった様々な難局に直面し、一部のメーカーでは海外でのバックアップ基地を設置し、世界におけるバリューチェーンの再構築を考え始めている。

 台湾は、半導体、ディスプレイ、太陽光エネルギー産業などにおいて川上分野から川下分野にかけての企業の集積が進んでいる。最先端製造技術の開発やハイエンド・モバイル機器関連のビジネスチャンスに恵まれており、日本企業が台湾で共同開発や共同生産を行うための拠点を設置することを切望している。特に、日本企業は東日本大震災後、「バックアップ基地」の必要性を実感したに違いない。台湾は、質の高い人材、安い水道・電気料金、知的財産権の保護、充実したICT産業クラスタ、文化の相互受け入れ度など、優れた生産基盤を持つ。日本企業が台湾に資本投下すれば、日本国内における生産能力不足をカバーでき、さらに現在のように日本国内に生産拠点が集中しているリスクを分散できるだろう。

 もし、日本が台湾を「バックアップ基地」とすることを検討するなら、まず「台湾先進堆疊系統・応用研発聯盟(Advanced Stacked-System and Application Consortium:Ad-STAC)」(台湾最先端積層技術・応用団体)に加入することを提案したい。なぜなら、台湾はICパッケージング、Siファウンドリ、ファブレス、チップのエンドユーザーなどIC産業のバリューチェーンとクラスタが整っており、今まさに次世代先端パッケージ技術の開発に精力的に取り組んでいるからだ。日本企業は、このAd-STACを利用して、次世代先端パッケージングに必要なBT基板やアンダーフィルなどのバックアップ生産基地を確立するべきである。そうすれば、日台産業間の垂直協力関係の強化を図れるだけでなく、日本の材料メーカーにとって川下分野のメーカーに輸出できる絶好のチャンスが生まれるだろう(図4)。

図4 Ad-STACと3次元IC分野における協力フレーム図
Ad-STACと工研院IEKのデータ(2012年2月)
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