中国でパソコンが普及した背景には、ゲーム好きの中国人にマッチする(海賊版を含む)ゲームが簡単に入手でき遊ぶ環境が整ったことと、中国国産のチャットソフト「QQ」がキラーソフトとして成長軌道に乗ったことで非マニアよだれモノの製品と化したことが挙げられる。中国人の購入意志をテキスト化すれば、「ハードウエアさえ買ってしまえば、(海賊版)音楽を再生できるし、(海賊版)OSやアプリケーションを自由に入れられて、(海賊版)ゲームも遊び放題だから欲しい」というわけだ。前述の理由に比べれば陰に隠れてしまうが、簡単に自由にソフトを入れられるカスタマイズ性ゆえに人気になったとも今思える。それはユーザー視点での「Android対iPhone」の論争を見て改めてそう感じる(中国市場をとらえる上でパソコンとAndroid端末は同じ括り方をしても良さそうだと最近思えてきた)。

 パソコンが若者の間で普及し、ノートパソコンが安くなってくると、今度は「有名外資系メーカーのノートパソコンを携えて評価されたい」というメンツの要素が出てきた。近年オンラインショッピングが普及していく中で、上海だろうと雲南省だろうと上海価格で購入できるようになり、ノートパソコンがさらに一段安くなるや、一気にノートパソコンが普及しデスクトップ離れが起き始めた。メンツが要素に加わり、見栄えも重要になってきた。

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メンツがパソコンの購入動機の要素に加わり、有名外資系メーカーのノートパソコンへの関心が高まってきた。

 ゲームが人気なので、皆、描画能力も最新のゲームが楽しめる程度には欲しいと思っている。デスクトップ隆盛期においても“そこそこのCPU+外付けビデオカード”を搭載した製品が人気だった。ノートパソコンに主流が移った現在も“Core iプロセサ+ビデオチップ”を搭載した製品が支持され、さらにはスピーカーのしっかりしたモデルの受けが良い。そのニーズを汲み取り、合致した製品をアピールし続けたLenovo社の「Ideapad Y」は人気のシリーズとなった。一方、性能面では優れているはずの東芝の「Qosmio」は注目を浴びなかった。中国在住の筆者は、Qosmioの存在は知っていたが、アピールが極めて少なかったように思う。性能も大事だがアピールは重要だと思う一例である。

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ノートパソコン「Ideapad Y」が人気シリーズとなったLenovo社の商品を扱うショップ。

 日本では「Celeron」搭載機種が売れ、「Atom」搭載のネットブックもそこそこ人気だ。日本人を含め先進国の人々は「我々より貧しいのだからCeleronやAtomは歓迎されよう」と想像しがちだ。だが、それは思い込みだ。新興国の消費者は「高い買い物をするからこそ、末永く使い倒したい」という気持ちを持っている。初めてパソコンを買う人はまだ多いが、「低スペックでも問題ない」とは誰も思っていない。また、買い換えユーザーにしてもメンツの点から、「AtomやCeleronを搭載した製品を買おう」とは思わない。加えて、中国人はパソコンに限らず普段の買い物で同胞の中国人にだまされ続けているため、「一番安いモノには訳がある。きっと問題を抱えているに違いない」と一番安いモデルには警戒を露わにする。

 「貧しいからコストパフォーマンスは大事」ではあるが、「貧しいから安い商品が売れる」と思うのは誤解なのである。