発明者本人が特許成立に本気で取り組むことが重要

 「国際知的財産活用フォーラム2012」の特別講演で細野教授が話したハイライトの一つは、韓国の特許庁が細野教授が出願した基本特許を「容易に推定できる」という理由で、特許としての独自性を否定したことへの対応だった。

 同特許は日本国内では成立していたが、韓国の特許庁は特許として拒絶査定するという判断を下した。2009年5月だった。細野教授は学会などで国際的に独創的な研究成果と認められている内容であっても、特許の世界では認められるとは限らないという事実に驚いた。学術界では独創的と認められた研究成果を、特許としては認めないことに対して「5年間の研究成果を否定されたのものと感じたため、当該特許の成立に精力を傾けた」という。

 特許庁の審査官は原則、文献主義によって特許の新規性や独創性などを判断する。このため、細野教授は当該特許申請の請求人である科学技術振興機構の代理人弁理士の“補助説明者”として、韓国の特許庁の拒絶決定不服の場に立った。この時の体験から「研究者本人がその研究成果の新規性などを丁寧に説明することが大切と感じた」とし、「発明者が本気で特許成立に取り組まないと、特許係争には勝てないと感じた」と続ける。

 以上のように、産業化されるとかなりのインパクトを与える基本特許を産み出した研究者でないと体験できないことを、「国際知的財産活用フォーラム2012」の特別講演で具体的に語った。

 細野教授は研究成果について、学術面での講演では多数話をしたが、自分の研究成果を基にした特許についての経緯を話したのは、「今回が初めて」という。自分が係わった研究成果に基づく特許の係争に関係することは、研究開発の時間を割くことになり、かなりの悩みになりそうだ。

日本の大手企業も技術移転のライセンスを受ける

 大学教員は独創的な研究成果を上げても、その実用化を担当するのは企業となる。科学技術振興機構は酸化物半導体TFTのパテントプールをサムソン電子にライセンスしたことに続けて、2012年1月に国内の大手電気メーカーにもライセンスした。

 この国内の大手電気メーカーの名前は公表されていないようだが、業界関係者はシャープだと推定している人が多い。

 さらに、ここ1~2年前から米国アップル社はタブレット型情報機器「iPad」に酸化物半導体のIGZO製TFTを採用するといううわさが流れ続けている。当初は「iPad2」に採用されるといううわさが流れたが、実現しなかった。現在は、「iPad3」に採用されるといううわさがまた流れている。その結論は近々明らかになるだろう。

参考文献) 野澤、「酸化物半導体TFTの特許、JSTがSamsung社に実施権」、『日経エレクトロニクス』、2011年8月22日号、pp.16─17.