私が実際にクライアントと一体となってブランド戦略を構築するワークショップを実施する際に使用しているテンプレートは、1日半のディスカッションを前提に(1)ブランドビジョン、(2)ビジネスモデル、(3)マーケティング戦略、(4)ブランドアイデンティティ――の順に合計27の質問に答える形で戦略を定めていきます。項目ごとに参加者全員が意見をぶつけ合い、コンセンサスを探ります。その際、多数決による最大公約数的な解を求めるのでなく、皆が情熱をもって未来を創造できるような思い切りポジティブなアイデアを採り入れるのがポイントです。全ての質問への回答に関して参加者のコンセンサスがとれればその時点でブランド定義Ver.1.0の出来上がりです。

 今回は、私たちが仮設的にブランドを定義する際に使っている簡略版テンプレートを紹介します。下図にあるようなごく簡単なものです。ここでは、まず最初に事業戦略(製品やサービスのマーケティング戦略にも適用できます)に関して、「ビジョン」「環境変化」「顧客像」「必要な資源」の順に書き込んでいきます。考慮の対象が企業や事業レベルの戦略である場合は5年先を見据えて、製品・サービスレベルの場合は2年先を見据えて「将来」の「機会」から逆算した戦略を作ります。当たり前のことですが、事業戦略もブランド戦略も「今の現状」を定義するものではありません。あくまで「達成したい未来の状態」を想定・想像して作るのが戦略です。

タイトル

 具体的に説明します。まず「ビジョン」の領域では(1)事業目標、(2)ブランドイメージ目標――の二つを記入します。前者は自分のビジネスモデルとP/Lや市場シェアの発展イメージ、後者は事業がユーザーや取引先やマスコミや社会全体からどのようなイメージで見られたいのかを記入します。

 「ビジョン」は自分の夢を文章化することに近いのですが、勝手読みは禁物です。事業をとりまく環境は刻々と変化しますから、社会・市場・技術・競合・顧客の各視点から今後5年間に想定される変化を予測しながら「ビジョン」を微調整します。

 続いて「顧客」について考えます。事業は新しい顧客の創造を通してのみ発展します。ブランドも顧客の心の中の共感や感動を核として発展するものです。ですから、ここでは「この事業を通してどのような顧客を獲得したいのか」「どのようなお客様がついてくれるのか。どのような理由で買ってくれるのか」をできるだけ具体的に書き込みます。「30代の男性サラリーマン」といった抽象的な顧客像はダメです。「『真・三國無双』にはまっているゲーム好きな心理学専攻の女子大生」とか「中国・大連市内でコールセンター業務を行なう設立1~2年目の日系企業」のように獲得したいお客様をリアルに描写する方が戦略に血が通います。その上で、自分達は顧客のどのようなニーズを満たす、あるいは先取りすることができるのか、そして顧客の心をつかみ、喜ばせ続けることができるのか、自分達の製品や技術やサービスが顧客に愛される理由は何か、を考えていきます。

 ここまでは絵に描いた餅ですから、この戦略の実現のために必要なリソースを洗い出す必要があります。まず現有のすべての資源、流動資産・固定資産、社員、製品、ノウハウや特許、流通・販路、顧客ベースなどを棚卸ししてください。続いて今定義した事業戦略を現実のものとするために今後さらに必要となってくる投資を記入します。技術者のリクルート、生産ラインの追加、外部企業との提携、広告やプロモーションによる拡販、顧客管理システムの構築など、そしてそれを手当てするための資金計画などを書き加えていきます。

 これでブランドを考える前提としての事業戦略の概略ができました。とても大雑把なやり方ですが、目的はこれから考える将来のブランド目標を事業戦略とシンクロさせることにありますから、この程度で大丈夫です。

 実はここまでくるとブランドを定義するのに必要な要素は既にほぼ出尽くしているのです。上記の「ビジョン」「環境変化」「顧客像」「必要な資源」に書いてある事柄のうち、ブランドに関する要素を抜き出しつつ言葉を足したり引いたりしていきます。最終的に定義したいのは自分のブランドの「核心価値」です。私はクライアントに説明する時は「Brand Promise」と呼んでいます。その方が分かりやすいと思うからですが、いずれにせよ「このブランドが提供する本質的な価値はまさにこれであってこれ以外の何物でもない」というブランドのエッセンスを思い切って短いフレーズにまとめることが重要です。先ほど見た4つの事例を思い起こしてください。

 定義したらすぐに実行です。外へ向けた発信の前にまず身内からです。次回は、「社内を固めるインターナル・ブランディング」についてお話ししたいと思います。