次に私の番になった。というより、アジェンダの中にある検討事項から秘書を通じて順番を奪い取ったのだ。こうでもしないと、会議はいつ終わってしまうかわからない。携帯電話にもどんどん電話が入り会議が中断してしまうこともしばしばだ。これまでにも携帯電話がなり、少し電話をしてくると会議室を出てしまった会長がそのまま会議から立ち去ってしまうケースも何度かあった。こうなってしまわないうちに、大切な案件は先に話してしまわなければならない。次にいつ時間が取れるかわからないからだ。

 私はいつも工夫して案件を5分ほどのDVDにまとめて会長にプレゼンテーションする。会議をしばしば中断する会長もDVDには最後まで見入ってしまう。英語が堪能な会長でもやはり中国語にする方がいい。

 「なぜ、君はこの案件を特に採り上げたのか」

 案件の内容について質問されると思いきや、この案件を会長に説明することになった理由を最初に聞かれた。

 「この案件は、そのものの収益だけではなく他への波及効果もあり、グループとして最初にやるべき…」

 そこまで聞いたところで、華僑会長はもう説明はいいと手を振る。「会長はお気に召さなかったのか」と気にしていると、「君が責任を取るというならどんどん進めなさい」とあっさりGOサイン。内容についてしっかり理解しているのか不安な所もあったが、GOサインが出たのだからこれ以上の説明は不要と次の案件に移る。

 その場でどんどん決裁していくのも華僑流。だから、会長の判断があるその場に秘書も同席させないと議事録を残すわけでもないので、何が決まったのか組織に伝わらなくなることもある。だから秘書や事務方を会議に同席させるようにしておくことが重要だ。

 私からの提案に対して会長は、即断即決をしたので、会長が本当に理解して判断をしたのかどうか側近に尋ねてみた。

 「会長は、あなたの提案を事前に色々と調べていましたよ。特に数字に関してはシビアにみていたと思います」

なるほど、会議の段階では案件の内容については結論がでていて、あとは担当者の自信や勝算について確認していたのだと再認識した。

 日本では担当者が案件について提案をする際、最初に感触をつかむためにトップにお伺いを立てることがある。こうしたケースでは、数字は詰め切っていない場合が多い。指摘された点を修正していくことで、トップや関係者の意向に沿ったものにするという修正スタイルなのだ。

 華僑スタイルでは、それは通用しない。曖昧な提案は一発で却下される。一つひとつが真剣勝負で担当者も責任をもって進められるなら、トップもサポートしようというスタイルだ。

 会議では最後の収益に関する数字や担当者の意思の確認が行われている。何も決めない会議、挨拶や顔合わせの会議、報告だけの会議を華僑は最も嫌う。よく日本人経営者は、「まず会ってみよう」と中国人経営者にアポイントメントを求めてくることがある。何かいい話でもあるのかと華僑の経営者が会ってみると結局挨拶だった。これでは、もう二度と会わないということになる。せっかく時間をとるのだから、何か実になることを求めるのは当然と考えるのだ。日本の経営者も少しは、その姿勢に学ぶべきかと思う。

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