以前から大まかな概念だけが明らかになっていたドイツVolkswagen社の新しいモジュール戦略「MQB」がかなり明らかになってきました。MQBはドイツ語で「Modularer Querbaukasten」、英語で「Modular Transverse Matrix」の略で、横置きエンジン用車モジュールマトリックスを意味します。これまでVWグループは「Polo」「Golf」「Passat」など、クラスによってサイズの異なるプラットフォームを用意し、これらのプラットフォームを横展開することによって、開発の効率化やコストの削減を図ってきました。

 例えばGolfのプラットフォームは、グループ傘下のドイツAudi社「A3」、スペインSeat社「Leon」、チェコSkoda社「Octavia」などの同クラス車はもちろんのこと、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)のVolkswagen社「Tiguan」も利用しています。

 しかし、プラットフォームの共通化には限界もありました。異なる車種に展開する際には、変更しなければならない部分も多かったのです。例えば、同じプラットフォームを共有するTiguanとOctaviaでも、車体にインパネを取り付けるためのブラケットは形状が異なっていました。その理由は、そもそものプラットフォームがさまざまな種類の車種に使われることを前提として設計されていなかったことにあります。

 これに対しMQBは、プラットフォームをいくつかのモジュール(Volkswagen社の呼び方ではツールキット)に分け、そのモジュールの組み合わせによって、ホイールベースやオーバーハング、幅などの寸法を柔軟に変更できるようにして、PoloクラスからPassatクラスまで、Volkswagenグループのほとんどの横置きFF(前部エンジン・前輪駆動)車をカバーするように設計されています。Volkswagen社にとっては、社運をかけたプロジェクトといってもそれほど大げさではないでしょう。

 MQBは、初めからバリエーション展開を前提に設計し、可能な限り部品種類をミニマムにするよう配慮しているのが従来のプラットフォームとの大きな違いです。例えば、前述のように車種により異なっていたインパネの取り付けブラケットは、Golf、A3、Octabvia、Leonですべて同じ部品を使うことになっています。

 MQBのもう一つの特徴は、今後のパワートレーンの多様化に対応できるように設計されていることです。同じ車体構造で、エンジン車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、代替燃料車など、さまざまな種類のパワートレーンを搭載できるように車体とパワートレーンを一体で設計しています。

 ことし3月のジュネーブモーターショーでMQBを採用した最初の車種となる新型A3が、ついで9月末に開催されるパリモーターショーでは新型Golfが発表されるとの噂がもっぱらですが、そうした中で最近、モデル末期となった2012年型のGolfに乗る機会がありました。驚いたのは、従来モデルながらその完成度の高さです。

 2012年モデルの目玉は、排気量1.2Lの「TSI」エンジンにアイドリングストップ機構を組み合わせたこと。試乗の会場となったお台場周辺の一般道路を、かなり渋滞にも巻き込まれながら走った結果の燃費は13.8km/Lと立派なものでした。

 その燃費にも増して印象的だったのが乗り心地や静粛性などが、格段に向上していたことです。最近の同クラスの国産車も良くなってきているので、Golfのアドバンテージは相当に薄れているのではないかと思っていたのですが、再びGolfが引き離しにかかってきた印象を受けました。

 MQBを採用する新型Golfは、さらに燃費でも走行性能でも大幅に向上させてくるはずです。日本メーカーもパワートレーンの刷新などを進めていますが、Volkswagenの新モジュール戦略は相当な脅威になりそうだと感じました。