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 世界一の燃費性能を誇るトヨタの新型ハイブリッド車「アクア」が、いよいよ発売された。1.5Lエンジンと減速機構付きのハイブリッドシステム「THS II」により、JC08モードで35.4km/Lの燃費性能である。当初、1.5LエンジンのTHS IIと聞いた際には、2代目プリウスのユニットを活用したのかと思ったが、1.5Lエンジンは中身が70%新しくなり、二つのモータ/発電機もそれぞれ新設計で小型化されている。プリウスより42kgもシステム質量が軽くなっているという。

 さらに、車体は高張力鋼板を広く採用するなどにより軽量化が行われ、車体の空気抵抗係数もコンパクトクラストップのCd0.28に低減されている。プラットフォームこそ「ヴィッツ」をベースにしているが、あえて車名を新しく命名するだけの中身があることが窺える。車両諸元はほぼ一つで、装備の違いによりグレードが分かれており、それによって車両質量やトレッドに若干の違いがある。今回試乗したのは、量販グレードのSと、最上級グレードのGである。

 アクアの量販グレードであるSに乗ってまず感じたのは、出足に勢いがあり、加速が心地よいことだ。中身が70%刷新されたエンジンと、新開発の小型モータ/発電機は、同じ1.5Lエンジンだった2代目プリウスより若干出力は落ちているが、車両質量の軽さが、この加速の良さを生み出している。アクアが1080kgであるのに対し、2代目プリウスのSは1260kgと200kg近く重いため、パワー・ウエイト・レシオを計算してみても、アクアのほうが軽い。

 現行の3代目プリウスは廉価グレードのLでも1310kgある。また、ホンダの「フィットハイブリッド」は1130kgあって、1モータの「IMA」でありながらアクアより50kgも重い。この軽さを生かしたアクアの発進加速は、エンジンが始動しないようにモーターだけで走ろうとしても、プリウスのモータ走行より速度の乗りがよく、上手に使えば節約志向の無理なアクセルペダルの踏み方をしなくても燃費を伸ばすことができそうだ。

 さらに、そこからエンジンが始動した後の振動・騒音も軽やかで、アトキンソンサイクルによるものだろうと思われる「ブーン」という、こもるような振動騒音も低減され、エンジンが始動してからの加速も従来に比べ気持ちよくなっている。一言でいえば、軽さを生かした洗練された加速の感触だ。

 操縦安定性も非常に優れている。ここでも軽さが利いているうえ、ヴィッツのプラットフォームを活用しながらも、ハイブリッド用バッテリと、補機用の12Vバッテリをすべて後席床下に収めたことによって、重心を低く、また重量物をホイールベース内に搭載することができた。これによって慣性モーメントが小さくなり、ステリング操作に的確に反応し、かつ挙動の安定した走行を示す。

 ハイブリッド車であるかどうかとは別に、運転の心地よさと、安心をもたらす走行感覚を備えたコンパクトカーであることに、まず感心させらた。運転操作を支える座席は、たっぷりとした大きさと、適度な弾力と、そして体をしっかり支える形が整えられている。このシートだけでも欲しいと思った。

 荷室は、その容量はコンパクトカーとして標準的といえる大きさだろう。しかし、ハイブリッド用バッテリを後席下にすべて収めたことによる荷室の床の深さは、日常的な荷物の積載に実用的で、役立つと思う。

 座席のアレンジに目新しさはない。後席は背もたれを左右分割して前方へ倒し、荷室を広げることはできるが、後席下にバッテリを収納しているため、前に倒した後席の背もたれは、荷室の床とフラットにはならない。しかし、広げた荷室の床が平らであることを重視するなら、別の車種を選べばいい。アクアが、標準的なコンパクトカーとして非常に高い水準で仕上げられた一台であることを、私は高く評価したい。

 内装については、Sグレードでは室内色を選べる。グリーン系、ブルー系ともに、若々しさや新鮮さがあって、アクアに似合っていると思う。Gグレードになると、スエード調ファブリックの上級仕様となり、茶色を基調とした内装色と併せて大人びた雰囲気を味わえる。試乗したGグレードには注文装備の偏平タイヤが装着されていた。それでも、乗り心地が損なわれることはなかったが、アクアの軽さを生かした軽快な走行感覚を楽しむなら、標準サイズのタイヤが合っている。

 良い点ばかりを書いてきたが、一つ気になったのは、シフトレバーの操作感覚だった。トヨタの他のハイブリッド車と異なり、アクアはエンジン車と同じフロアシフトのシフトレバーを採用している。通常の変速機と同じ操作方法の方が、迷ったり間違ったりする心配が減り、その点はけっこうだが、操作する際の感触が滑らかでなく、動きにガタツキが感じられた。ここは早急に修正してほしいと思う。

 それ以外、アクアの全方位での出来の良さには感心させられた。プリウスから乗り換えてもいいと思うくらいだ。開発責任者は、初代プリウス発売前の初期計画段階からずっとハイブリッド車に携わってきた技術者であり、アクアにはこれまでの蓄積をすべて投入したこだわりが伝わる。その人物に惚れて、買って間違いのない一台だと思う。