◇“ものづくり”とは

 “商品づくり”、あるいは“商う価値がある、高品位な製品”を開発・設計・生産し、市場に出すこと。ここで、“もの=商品”は、次の3通りがあると考えている。

 1つ目は、伝統に裏打ちされた造り方をもって、高品位、高品質、高機能を有する“もの=商品”で、いわゆるブランド商品が代表格であろう。

 2つ目は、特にブランド商品というわけではなく、顧客が高い価値を認める“商品”である。例えば、「iPod」「iPhone」「iPad」など、故Steve Jobs氏が細部までこだわったというデザイン、形状、仕上げやアイコンの統一性をもたせた商品は、世界万人から価値を認められた“もの”である。その他にも、主観が入って恐縮だが、欧州車は他国の車に比べて“もの”としての存在感が際立っていると思える。その違いは表現しにくいのだが、例えば後ろ姿、内外装の質感、いかにも車づくりの伝統を背負った明確なアイデンティティなど絶妙な味付け(テイスト)のある“商品=もの”である。

 3つ目は、誰にも真似のできない職人的な技術で高機能を有する“もの”である。スイスの時計職人、日本の小さい町工場で育んできた特異性のある“ものづくり”をこの類としたい。

 “もの”には、“物”よりもレベルの高い企画、技術、味付けが要求される。日本の多くの製造業は、この“ものづくり”のレベルに達しており、以前は他の追随を許さず優位性を保っていたと思う。しかし、現在は液晶テレビ、自動車などの領域で、新興国が日本以上の“ものづくり力”を既に発揮している。

◇“ことづくり”とは

 商品の最終提供価値(サービスやビジネスモデル)までを作り込むこと。好例としては、米Apple社のビジネスモデルが分かりやすい。Apple社は上述の商品に必要な“物=製品・部品”をパートナーから調達している。言い換えると、それを“もの”に仕立て上げる企画はApple社であるが、提供するのはパートナーである。そして、それらの“もの”を入口・出口にして、その間のビジネス(さまざまなアプリ、コンテンツ、課金などのサービス)を最終提供価値とするビジネス・イノベーションを起こしてきた。最初は音楽から始まって、映像・音声(携帯電話)・書籍などをビジネスモデルに組み入れ、今後はテレビ放送や双方向の通信を生かした最終価値(“こと”)を提供しようとしている。

◇“もの・ことづくり”とは

 商品としての“ものづくり”と、商品の最終的な提供価値につながるビジネスモデルまでを総合的・融合的に作り込むこと。 今後の日本のめざすべき方向がこれだと思っている。

 日本は戦後一貫して“ものづくり”が強かったが、前述したとおり新興国により予想以上のスピードでキャッチアップされている。しかし、ここで“ものづくり”をあきらめて“ことづくり”のみにシフトすれば良いのではない。日本の培ってきた“ものづくり”も進化させながら“ことづくり”を有機的に融合していかないとグローバル競争を勝ち抜けない。

 “もの・ことづくり”の好例として、以前からあるものではビジネスプリンタの印刷最適化を含めた印刷サービス、また、近年著名なコマツの建設機械遠隔監視サービス「KOMTRAX」などがある。

 これらの例は、ほぼ1社を中心に構成できるビジネスモデルだが、規模が大きくなればパートナーと共同してつくる“もの・こと”に発展する。例えば、タブレット端末を軸としたビジネスモデル、あるいはまだ構想段階のスマートグリッド、スマートシティ構想などである。

 次回は、“もの・ことづくり”について日本が目指せる可能性を具体的に述べたい。