後者の動画配信サービスの進化に関しては、例えばブロードメディアが運営する「 T’s TV 」のように「単にWebブラウザで表示するのではなく、動画コンテンツの選択画面など、各種操作画面を含めてビデオ動画で送ってしまえば、テレビ端末側にはビデオ・デコーダさえあれば済む。テレビの画像処理といった複雑な部分も、今後はネットワークを介して外部で処理する時代になるのではないか」という考え方です。これまでテレビ側で処理してきたようないくつかの処理を、ネットワークを介してクラウド・コンピューティング的に処理していく――。そうなれば、テレビは表示機能とビデオ・デコーダ、そしてネットワーク・アクセス機能としての無線LANさえあれば済む、と。

「テレビにはまだ、出来ることがある」

 この飲み会には、元大手テレビ・メーカーでテレビの企画開発に携わっていたBさんも出席していました。Bさんは「うーん。Aさんの言いたいことはよくわかる。だけどね、僕はまだ、テレビというハードウエアには、出来ることがあると思っている」と、反論されました。BさんもAさん同様に、スマートテレビの登場が、結果として日本メーカーのテレビ事業の弱体化に拍車をかけるのではないか、という危惧を抱いています。だからこそ、スマートテレビだけではない、何か別の付加価値をつけないといけないと。「それを今、延々考えている。アイデアはある。言えないけど」(Bさん)。Bさんは退職後も豊富な人脈を生かし、某大手企業のテレビ事業戦略に関わっています。2012年、もう一度勝負をかけるため、3Dや4K2K以外の方向性を模索しているようです。

 議論が熱くなってきたとき、偶然にも二人から同じキーワードが飛び出しました。「それにしても、やっぱりiTVが気になるよね」。「そうそう、iTV」。米Apple社が今年発表するというウワサの「iTV」には、お二人とも興味津々でした。Aさんは、「ひょっとするとiTVは、チューナー無しで、無線LANとNFCだけ付けたディスプレイじゃないか」といった推測。一方のBさんは、「iTVは有機ELを使うというウワサがある。テレビ・ハードウエアとしての別の付加価値を打ち出してくるんじゃないか」との見方です。

 テレビというハードウエアは、まだまだ新たな付加価値を訴求し続けられるのか、それとも単なる「表示板」、もしくは「スマートフォンの周辺機器」になってしまうのか――。テレビにおける通信回線やソフトウエアの役割が大きいスマートテレビが普及すればするほど、誰でも作れるようになり、ハードウエアとしての価値を訴求しにくくなる。この難題の突破に要する時間はあまりありません。Apple社のiTVが打ち出すであろう新たな方向性に、その発表前から業界関係者の様々な角度からの期待が集まっているようです。