今回紹介する書籍
題名:我们的生活为什么这么无奈
作者:郎咸平
出版社:東方出版社
発行日:2011年7月

 今回は『我们的生活为什么这么无奈』の3回目。今回は1月23日に迎えた「春節(旧暦の正月)」に関する分析をご紹介する。

 ご承知の通り、中国では今でも太陽暦の正月よりも旧暦の正月を盛大に祝う。たとえば、今年は1月1日の休暇は1日から3日までだったのに対し、旧暦の休暇は1月22日から28日までの7連休である。また、正月には故郷に帰り家族と過ごす、という伝統的な行動パターンも健在である。そこで起こるのが、13億人が繰り広げる「大移動」。この大移動には「春運」という名前まで付いている。2011年3月に発表された数字では流動人口(出稼ぎなどで本籍地を離れている人口)が約2億2100万人。彼らが一斉に移動するとなると大きな混乱をきたすであろう事は想像に難くない。

 本書の第15章では、この「春運」について触れている。政府は、2011年の旧正月を含む40日の「春運期間」中に移動する人口は28.5億人と予測したという。このような大移動が起こると当然列車の切符が手に入りにくくなる。これが、この「无奈(どうしようもないこと)」である。普通なら、「移動が集中すれば混雑するのは仕方がない」と考えてしまうが、本書では、この「春運」の混乱、そして、切符が手に入り難いという「悲劇」も人為的なもので解消可能だという。

 郎氏はこの混乱を解消するためには高速鉄道の建設よりも、従来の一般列車の本数を増やすことだという。高速鉄道の建設などに使われる資金を一般列車に振り向けた方が効率的だというのだ。郎氏によると、春運の混雑の緩和のために必要なのは列車のスピードではなく、列車の密度なのだという。早い列車を作ったところで、最高速度で走れる距離は知れているのだし、ダイヤの関係もあって、高速鉄道に乗れば早くスムースに帰省できるわけではないのだという。

 また、高速鉄道をいくら作ってもそれを利用できる経済的余裕のある層が増えなければ意味がないという。たとえば、武広高速鉄道は3.5時間で武漢―広州を結ぶが、一等席が700元強、二等席でも490元。一方、従来の列車なら10時間程度かかるが、二等寝台で300元、二等座席なら100元である。  6.5時間のコストとして最低でも390元を払える人間はそう多くない。また、逆に鉄道側が利益を上げるために、より高い切符を買わせようと、一般列車に空きがあるにもかかわらず、満席だと偽り、高速鉄道の切符を買うように仕向けることさえあるという。このような状態では「春運」の混乱の解消は難しいだろう。

 以上のことを鑑み、郎氏は、「高速鉄道よりも一般列車の増発を」と主張する。氏の主張は一貫して、見栄えのいい派手な「経済発展の象徴」に拘るのではなく、あくまで「実際に役に立つ」ことに重点を置いている。中国人は「面子」の国民だ。どうしても「経済発展を証明する」ようなプロジェクトを中心に社会資源が投下されていくがその方向性を改めるべきだ、というのが本書に一貫して通底する思想である。そのような点が、多くの共感を呼び、「インターネット九大英雄」と言われるようになっているのであろう。