半導体分野でも中国企業の台頭が予想されますが、中国企業といえども、利益率が低い上に、参入のためのコストが高いメモリ事業に参入することは、容易ではないでしょう。メモリ事業は、現在の日本、韓国、米国企業が将来にわたって生き残りそうです。

 参考になる例としては、Amazon.comはあえて低い利益率を志向し、新規の参入障壁を高くすることで、市場で独占的な地位を築いたと言われています(http://www.higuchi.com/item/657)。Amazon.comはITの技術力で、販売、流通、広告のコストを劇的に下げました。そして、下げたコストを価格に転嫁することで高収益を目指すのではなく、価格を下げたのです。

 そうして、Amazon.comは既存の店舗に比べて、圧倒的なコスト競争力で、商品を安く、早く顧客に届けることに成功しました。Amazon.comは低価格戦略で利益率を下げながら、市場シェアを高めたのです。

 Amazon.comのような本や家電、生活用品の販売事業には在庫、流通の巨大なインフラと、サプライチェーンを管理する複雑なITシステムが必要です。これらのインフラは規模の経済が有効です。Amazon.comの市場シェアが大きくなるほどコストは低下し、新規の市場参入が困難になりました。

 Amazon.comは残存者利益ではなく、自ら積極的に利益率を下げることで、独占的地位を築いたわけですが、低い利益率が市場シェアを高めた良い例でしょう。

 市場を寡占状態にし、残存者利益を得るためには、価格競争を生き残るための資本力、体力勝負をしている間も企業を維持できる事業ポートフォリオ、極限までコストを低減するためのライバル企業の買収や合従連衡、投資家や従業員の理解など様々な戦略が必要です。

 最初に述べた全てのエレクトロニクス産業を日本に残すというのは、実際は難しいのかもしれません。体力勝負の価格競争に生き抜くためには、狙った市場で日本あるいは、海外の同業他社と連携・統合し、規模の経済により極限までコストを下げることが必要になるでしょう。

 NEC、日立、三菱電機のDRAM部門が合併して作られ、台湾のDRAMメーカーとの連携を深めているエルピーダメモリや、ソニー、東芝、日立の子会社などの中小型液晶ディスプレイ事業が統合してできたジャパンディスプレイなどがこうした企業提携の例です。