さあ、2012年がスタートしました。今年一年、気持ちを新たに、そして発想を新たにまいりましょう。

 さてさて、念頭のご挨拶に何を書こうかと、2011年を振り返ってみれば、東日本大震災に、六重苦に、タイの洪水に、と製造業は試練の連続でした。ならば、「試練を乗り越えて強くなりましょう」と題した挨拶文でも…と思い立ったところで、ふと、どこかで見たようなタイトルだと気付きました。ちょうど1年前の本コラム、私のご挨拶のそれが「難局を乗り越えて強くなりましょう」だったのです。

 あのときは2010年を振り返り、トヨタ自動車の品質問題や1995年以来といわれた円高などを取り上げて「ワンランク上の安全を構築すれば、大きな商品力となるでしょう。自動車、電機頼みだった産業構造を転換し医療などの新産業を創出していけば、内需も拡大しますし、新たな輸出産業にも育つでしょう」と書きました。あれから1年。このことが、今まさに製造業が直面している難局においてより重要になってきているような気がしています。

 というのも、同じ難局でも1年前と今とでは「険しさ」が相当違います。経済環境を見れば、1年前は円高、高い法人税、貿易自由化の遅れ、労働規制、温室効果ガス抑制策の五重苦で、今はそこに福島第一原子力発電所の事故に端を発した電力不足問題が加わった六重苦。「苦」が単に一つ増えただけというのではありません。6番目の苦は製造業の生産に直結しますし、円高は2010年の80円台に対し、今では70円台とより厳しくなっています。残る苦についても、韓国や中国をはじめとする新興国が急伸している中でその重みは日を追うごとに増しています。こうした六重苦からの解放を求めて自動車メーカーや電機メーカーなどが進める海外シフトも、もはや誰にも止められません。

 そう、日本の製造業は今、転換点に立たされているのです。だからこそ、昨年書いた「自動車、電機頼みだった産業構造を転換し医療などの新産業を創出していけば」という部分がより重要になってきているのではないか、と感じるわけです。ものづくりの新しい出口を創出するには、従来の発想の延長ではなく、全く新しい発想で取り組まなければうまくいきません。多くの製造業には、これまでの自動車と電機に代わる出口、顧客や社会が求める新しい出口を構想する力が求められています。

 そして、出口さえ見つかれば、後はしめたもの。日本には、それを精緻に具現化するための武器がありますから。世界が羨む、材料技術と加工技術(生産技術)です。出口がいかなるものになろうとも、この二つの技術なくしてものづくりはあり得ません。世界最高峰の両技術を駆使して、新しい出口を見据えたものづくりを展開していただきたいと思います。

 東京大学大学院教授の伊藤元重氏は、ある講演でこうおっしゃってます。「日本の産業構造は大きな転換点を迎えていますが、決して悲観的になる必要はありません。時代が変わればものづくりの姿も産業の姿も変わってくる。変化を恐れず、新しい形をつくっていけばいいのです」。全く同感です。

 『日経ものづくり』も2012年が転換点です。これまでの「製造業の課題解決と技術革新を支援する」雑誌から「製造業の開発・設計・生産を応援する」雑誌として、発想を新たに、より読者の皆様の視点に立った情報提供を心掛けてまいります。2012年も、引き続き『日経ものづくり』と『Tech-On!』をよろしくお願いいたします。末筆ではございますが,皆様のご健勝をお祈り申し上げまして,新年のご挨拶とさせていただきます。