日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか、山田奨治著、2,520円(税込)、単行本、228ページ、人文書院、2011年9月
日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか、山田奨治著、2,520円(税込)、単行本、228ページ、人文書院、2011年9月
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山田 奨治氏。国際日本文化研究センター教授。1963年生まれ。筑波大学大学院 修士課程 医科学研究科修了後、日本アイ・ビー・エム、筑波技術短期大学 助手などを経て現職。専門は情報学と文化交流史。(写真:山本 尚侍)
山田 奨治氏。国際日本文化研究センター教授。1963年生まれ。筑波大学大学院 修士課程 医科学研究科修了後、日本アイ・ビー・エム、筑波技術短期大学 助手などを経て現職。専門は情報学と文化交流史。(写真:山本 尚侍)
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 本書では、日本で著作権法違反の厳罰化が急速に進んでいる理由を分析しました。見えてきたのは、一部の権利者の声の大きさによって著作権法の改正内容が決まっていることや、法改正に向けた議論が、より閉ざされていく傾向にあることです。さまざまなデジタル機器やインターネットで著作物に触れるようになり、人々と著作権の関わりは深くなりました。法改正の議論に少しでも注意を払ってもらいたい、そして必要に応じて声を上げてもらいたいという思いがあります。

 私が考える「文化」とは、人々が共有する生活・思考・行動の様式です。その文化を伝え、新しい文化を生み出すことを、今の著作権の在り方が阻害しているのではないか。それが、長年にわたって著作権を研究テーマの一つとしてきた私の問題意識です。

 人文系の研究者という立場上、世界中のあちこちで日本の文化が広がっている様子を目にします。例えば中国では、日本の正規版DVDがかなり流通するようになりました。その原動力となったのは海賊版だと私はみています。外国への文化の押し付けはできません。たくさんの選択肢を用意しておいた中から、消費者が選んだものが文化として定着していくだけなのです。

 法的な整備に力を入れて正規品しか流通できないようにするけれども、海外の消費者が非常に安価に著作物に触れられる環境を用意するわけでもない。でも「日本の文化を広めよう」という掛け声は大きい──。こうした権利者の行動には矛盾を感じます。

 インターネットという、これほど根本的な流通の変化が起こったら、役割を終える業種が出てくるのは必然です。著作物の流通をコントロールしてきた権利者も、時代の流れに合わせて自らの役割を変えるしかないのです。権利の強化による時間稼ぎには、早晩、限界が訪れるでしょう。

 日本の著作権法は厳しくなる一方ですが、技術者は萎縮してはならないと思います。これまで、新しい技術が新しい文化を生み出してきました。日本にこだわらずに、新しい技術や事業のアイデアを支援してくれる国や地域で実現すればいいのです。そうした流出が国家にとっての損失だということが明らかになってくれば、法改正のプロセスも変わるかもしれません。(談、聞き手は竹居 智久)