実用主義

 欧米や日本人は、物事の過程・プロセスを重視するのに対して、中国人はどちらかというと、結果を重視する。功名と利益を重視し、極端な言い方をすれば結果を達成するまでの手段は問わない。これは遊牧民族としての文化を根源に持つ部分があるかと思われる。

 大昔から発展してきた中国伝統医学と近代に発展してきた西洋医学と比べてみると、精密な実験や検査での実証主義に基づいた西洋医学と、見えずに再現もできない人体の「気」や「火」に基づいた中国伝統医学では、思考回路に違いがあることが分かる。繁雑な論理やロジックより、簡単、曖昧な解説を受け入れやすい。

 鄧小平氏は1980年代の初め、経済を発展させるために「石を探りながら河を渡る」、「白猫黒猫論(白い猫でも黒い猫でもネズミをとれる猫は良い猫だ)」など有名な持論を中国で展開した。実用主義、結果重視という風潮をさらに押し上げて、「GDPとスピード最優先、結果一番」といった中国経済の風潮を作り上げたのである。

 例えば、1980年代、中国各地は競って、海外からカラーテレビや冷蔵庫などの家電製造ラインをそのまま輸入し、製造工場を立ち上げた。テレビや冷蔵庫のブランド数は、それぞれ数十個ほどになった。それらのほとんどは、組み立て工場に過ぎず、今でも自力ではパネルなどのコア部品を作ることができない状況である。現在過熱している「エコシティー」の建設ブームにおいて、どれぐらいの中国企業が、技術を持って参入してくるグローバル企業と競争できるのか、まだ疑問のところである。実用主義では、誰かが成功すればすぐに気付かれて、瞬く間に成功者のやっていることがコピーされてしまう。イノベーションを考える余地もないだろう。

 イノベーションとは、時間やコストがかかり、失敗を繰り返すのが特徴だ。功績や利得を重視する実用主義では、短期かつ低コストで高利益を得ることを目標とするので、その目標に合わないイノベーションに取り組むことをしないだろう。企業だけではなく、大学や研究機関でも、質より論文の量とスピードが重視されるため、発表された論文が「盗作」で、摘発されるケースも後を絶たない。

道を歩くときの違い
日欧米:ルールに従い、決められた道を通ることが多い
中国:ルールに従わず、近道を通ることが多い

 上記の中国社会の「特質」となる権力社会、関係社会、実用主義は、もちろん悪影響を与えるだけではない。しかし、このような三つの特質が重なって、混在して存在することは、やはり中国発のイノベーションの拡大と持続を妨げている。真のイノベーションの創出は、まだ待ち遠しいとみられる。

 一国のイノベーションを、文化論のような視点だけで分析することは必ずしも適切ではないかもしれない。しかし、文化とイノベーションとの間は完全に切り離すことはできず、それを抜きにした議論は逆に現実無視になるとも考えている。これからも、文化論の視点から継続的に検討してみたい。