「あー」
 「そー」
 「へー」
 「…」
 「おい」
 「あれ」
 「ちょっと~」
 「ねぇ、ちゃんと聞いてんの!!」

 職場では、こんなこと言っていませんか。

 「おい、何が問題なんだ」
 「いったい、誰が悪いんだよ」
 「で、どうするんだ」

 私自身もついつい言ってしまうのですが、いずれもよくある家庭や職場の発言です。子供には頭ごなしに、夫婦間は言葉になっておらず、会社では切羽詰っていて余裕がない。これで日常生活が成り立つのですから、それはそれで凄いことかもしれませんが、文字にしてみるとコミュニケーションになっていないのがよく分かります。

 実は、これらのやり取りに欠けている大切なことがあるのです。それは、相手の存在です。相手の気持ちが見えていない。発言者は相手のことを感じ、考えながら話しているかと言えば、疑問です。

 確かに相手は目の前にいるかもしれません。その意味では会話は成立しています。ですが、きちんと相手と向き合っていない。つまり、対時していないのです。発言者の一方的な言葉では、本当の意味でのコミュニケーションは成立しません。コミュニケーションって双方向ですから。ほら、よく「会話はキャッチボール」って表現するでしょう。あれです、あれ。

おいおい、このテスト結果は何なんだ

 ただ、言葉だけのキャッチボールは、対話として成立しません。心も一緒にキャッチボールする必要があります。「言葉を交わしながら、気持ちをキャッチボールする」。それがダイアローグ、つまり対話です。

 では、ただの会話や議論と、対話はどう違うのか。分かりにくいと思うので、例を挙げながら見ていきましょう。情報システムの開発現場では、よくこんな会話が繰り返されています。登場人物のAさんは「プロジェクト・マネジャー(PM)」、Bさんは「システム・エンジニア(SE)」、Cさんは「プログラマ」、Dさんは「営業担当者」です。

Aさん 「おいおい、このテスト結果は何なんだ。いつまでたってもバグが収束しないじゃないか。このままでは、お客様と約束した納期に間に合わない。いったいどうなってるんだ」
Bさん 「SEとしては仕様をきちんと伝えてるんですがね。プログラムの品質がイマイチなんじゃないですか」
Cさん 「ちょっと待って下さい。設計書に記載がなかった追加仕様のプログラミング対応に追われていて、その他の作業が遅れてるんです。もっと早く言ってくれると間に合ったのですけれど」
Dさん 「え? 営業からは、早めに伝えてますよ」
Bさん 「あの曖昧なメールだけで伝えたつもり? 営業がお客様の要望をきちんと整理できないから、いつも俺みたいなSEが苦労するんだよ」
Dさん 「それじゃあ、どうして分からない部分を営業に聞いてこないの?
Cさん 「あのー、2人の話が終わったら、きちんと紙に書いて仕様を教えてくれませんか? 忙しいので、きちんとした仕様書がないとプログラミングの対応できません」

 この先、この話し合いはどんな方向に進むでしょうか。