台湾の経済紙『工商時報』が伝えたフォックスコン関係者の話によると、マナウスでは携帯電話業務がメーンで、フォックスコン傘下で携帯電話の受託生産を手がけるFoxconn International(富士康国際)社向けにコネクタや携帯電話のボディを生産。サンタ・リタではデスクトップPC・ノートPC関連部品の生産とアセンブリ、サンパウロではPC、携帯電話、サーバーを生産。従業員は合わせて1万人に上るという。

 2011年の新たな投資計画でフォックスコンが生産拠点を新設したのは、サンパウロ州ジュンディアイ。ブラジルではiPadやiPhoneを現地生産することで、ブラジル市民が安く同機を手に入れることができるようになるとの期待が高まっていた。

 ブラジル政府は5月24日、それまで売価に含めてきた税率9.25%の社会安全税について、タブレットPCを対象から除外する暫定措置を決定。これを受け台湾、中国やブラジルのメディアでは、税率の高さからiPadの生産決定を躊躇していたフォックスコンも、ブラジルに対する投資計画を正式に決め、7月にはiPadの生産に入るものと見ていた。

 ところが6月以降、雲行きが怪しくなってくる。6月下旬にはメルカデンテ科学技術相が、フォックスコンのiPad生産投入が当初予定の7月から9月に延期されると表明。ジュンディアイに新設した工場と幹線道をつなぐ道が完成していないことが原因で、投資計画自体に影響を与えることはないとしていた。その後、8月には生産開始が2012年にずれ込むとの情報が浮上。9月になると、「税制面での優遇や、最優先で通関させろなど、フォックスコンの要求は行き過ぎだ」とするブラジル当局者の不満を伝える報道が目立ち始める。これに対してフォックスコン側の声として報じられたのは、ブラジルのインフラや税制に対する不満、さらに、技術を持つ人材の少なさだった。

 そして12月中旬には、メルカデンテ科学技術相が、「膨大な額に上るiPad関連の投資についてなお交渉を続けている。今年中に量産と販売を開始するのは難しいだろう」とコメントするに至った。ただ、同氏は、iPhoneの量産については、ジュンディアイ工場で12月16日から始めると述べたという。

 さて、フォックスコンのブラジル進出が難航していることを伝える一連の報道について、同社が120万人の社員を抱える中国のネット上での関心は、「ブラジルでの人材確保が困難」という点に集中した。「ロマンチックで情熱的なブラジル人に、軍隊式管理で知られるフォックスコンの仕事が務まるわけがない」「勤勉な中国人やアジア人にしか、フォックスコンのライン作業は無理」というものから、「トレーニングをされたIC産業の人材がこれだけの数いる国は中国しかない」「フォックスコンはブラジルに行って初めて、中国が30年かかって育成してきた製造業の人材が貴重であることが分かるだろう」と自賛するものもあった。

 ただ、フォックスコンが中国の人材を評価しているは事実だ。このコラムでもかつて「iPhone 4とトイレットペーパー~120万人企業の福利厚生」と題した回で伝えたが、同社の郭台銘董事長は今年10月、優秀工員の表彰式で、ブラジルの生産拠点に中国や台湾から数千人規模を派遣する考えを表明。ブラジル進出にあたって中国で育成した人材を重用する考えを示している。

 中国に拠点を置く日系製造業の事情に詳しいある上海のコンサルタントは、「いわゆる『チャイナ・プラス・ワン』において、中国以外の進出先に中国のスタッフをそっくり連れて行くのは日系企業でもやるところが多い」と指摘。日系を始めとする外資系の海外展開に際し、中国の人材が欠かせないものになりつつあるとしている。